寺本明日香
本当にこの10年間、よくここまでやったなと思う
なんか悔しいとかじゃない
違うんですよ
10年間トップでやってきたからいろんなことがあった
ここまで来れて幸せだったと思う
本当に楽しかった
先日のNHK杯オリンピック代表選考会終了後のコメント
昨年大けがを負った寺本は
復帰戦を飾れるか
日本代表復帰が実現されるか
世間の注目を集めていた
寺本明日香は大ケガを乗り越え
再びこの舞台に帰ってきた
ロンドン、リオの2度のオリンピック出場
女子体操界を引っ張ってきた絶対的エース
そんな絶頂の彼女を突然の悲劇が襲う
2020年2月の強化合宿中の着地の失敗
左足アキレス腱断裂
東京五輪への出場どころか
競技復帰自体が絶望的と言われた
寺本は自分に言い聞かせる
世界選手権で死ぬ気で獲ってきた
東京オリンピックの団体出場の権利
他人に譲るの?
絶対に後悔する
わずかに残されている再起の可能性を信じ
現役復帰と東京五輪出場を目指して手術することを決めた
復帰に向けてのリハビリの道は困難と激しい苦痛を伴う
しかし、この期間については、何も語られていない
1年後の今年
2021年4月 全日本選手権
寺本明日香は再び体操界に姿を現す
帰ってきた
以前と変わらない軽やかな演技は健在だった
大ケガなどしていないかのように
次々と高得点をマークして行った
続くNHK杯
好調を保ったまま
寺本は次々と世界最高レベルの大技を繰り出す
むかえた跳馬では
D難度の大技「チュソビナ」を成功させ
14.733の高得点までたたき出した
誰の目にも渾身の演技は完全復活したかのように見えていた
ただ一人を残して・・・
やはり自分はだませない
以前の感覚ではない
この1ヶ月
昔痛めた右の足首のケガが悪化
まったく練習ができない日々が続いていた
それでも
このステージに立つことだけが唯一のモチベーション
これでいいのか
もう一人の自分が語りかける
もし自分が今の状態で日本代表に入ったとしても
とてもメダルを取れる演技はできない
もし自分が選ばれても
とても気持ちが続かない
決してだれにも止めることができない葛藤
それでも
今自分がやれることを全力でやるしかない
最終種目の床運動
この点数がすべての運命が決まる
あるのは焦りか
それとも一瞬の迷いか
演技も終盤に差し掛かった所
着地を失敗する
無情にもすべての演技が終了
記録は1.833と伸び悩む
合計160.761点
個人総合5位が確定
日本代表は
村上茉愛、畠田瞳、平岩優奈、杉原愛子に決まった
そこに寺本明日香の名前は無かった
表彰式の後
記者会見が開かれた
田中光女子強化本部長は
寺本明日香を代表に補欠で入れると発表
選手団として同じ日程で合宿をやっていくと話した
その横に寺本明日香
今の私にできる最大限の仕事
みんなをサポートできるように
精一杯がんばることが私の使命だと思っている
そう誇らしげに笑ってみせた
頬をつたう一筋の涙
よくがんばったね
そっと心の中で
つぶやきながら
Written by Kaz Okayasu



