心の高まり
ゴングの後に訪れた
すがすがしい充実感
自分の感情が
まったくコントロールできない
僕たちが観ていたのは
スポーツなのか
それとも
完成された壮大なドラマだったのか
ワールドボクシングスーパーシリーズ決勝
科学者の目、スピード
超高精度のハードパンチ
日本が生んだモンスター井上尚弥
対するは5階級制覇ノニト・ドネア
世界が認める英雄
蒼白き炎の闘志を持つ二人
世界が注目する一戦となった
序盤は静かな滑り出し・・
しかしそうではなかった
ファイティングスタイルが同じ二人
ゴングと同時に
常人には理解できない心理戦が
展開されていた
試合は2ラウンドで大きく展開
ドネアの左フックが
井上の顔面を捕らえる
右目上からは激しく出血
井上はプロになって初めて
流血での試合を経験することになる
リズムは狂う
完全にドネアのペース
しかし11ラウンド
ほんの一瞬
ドネアのガードがあがる
その隙を狙いすました
井上の左フック
ドネアのブローに炸裂
悶絶するドネア
両者満身創痍のまま最終ラウンド
一発を警戒していた井上
ついに右のガードを外し
勝負のストレートを連打する
ドニアも負けずにカウンターで応戦
まさに血で血を洗う
壮絶な打ち合い
洗練された技術に裏付けられた
正確無比なパンチ
そこにディフェンスはない
ついにゴング
判定は井上
二人は涙を流しながら固い抱擁
もうリングには勝者も敗者もない
「ドネアでなければ
ここまで感動的なドラマも起きていない
僕こそドネアに感謝の気持ちでいる
僕はドネアを尊敬して
ボクシングをやってきた
試合が終われば、
もう結果は関係なく称え合うもの
ドネアからは、気持ちの面で
いろんなものを受け取った
言葉じゃなく、拳で語り合った
36分間ぶつかり合って感じるものが大きい
最高の景色だった
とても楽しかった」
井上は語る
「井上はこれまでで間違いなく
最高の対戦相手
多くのことを学んだ
まだ最高の自分には達していない」
ドネアも最大の賛辞を送った
この激しすぎる
心の高まり
ゴングの後に訪れた
すがすがしい充実感
自分の感情が
まったくコントロールできない
僕たちが観ていたのは
本当にスポーツだったのか・・・

