結婚して20年。

先月の結婚記念日には、家族3人で磁器婚式のお祝いをしました。


『年代とともに値打ちが増す磁器のような夫婦』になったという意味だそうで、

記念におそろいの湯飲み茶碗を買いました。


傍目には、誰が見ても幸せな家族なのだと思います。

※1


主人の浮気に最初に気づいたのは、もう15年も前のこと。

幼稚園に通う娘に毎日手を焼き、帰宅が遅い主人とは、顔を合わせることもない日々でした。


ある朝、隣のベッドで寝ていた主人が寝ぼけて、


みいちゃん、帰らなくていいの?


主人は、その女性と浮気をしていたのです。

その日、彼は平謝りをしました。そして、すぐに別れるという約束をしました。

※2


以来、主人は帰宅時間が早まったばかりか、子どもの相手も積極的にするようになり、ついには朝のゴミ出しまでしてくれるようになりました。


亭主関白だった主人の変貌に、私は主人を信じ、浮気は終わったと思いました。


ところが、それから7年。

1通の年賀状が届きました。


「今年こそ、新しく充実した人生にたどり着きたいです」

という一文がありました。


名前も知らない女性です。

私はすぐにピンときました。

※3


「これ、どういう意味?この人は誰なの?」


さあ。

会社にバイトに来ていた女の子だよ。

もう就職もしたんじゃないかな。

まさか、疑っているのか?」


「あら、そう見えた?」


夫のこの気まずい表情は、前に浮気がバレたときと同じでした。

※4


私はこのとき何も責めず、何の約束もさせませんでした。


主人はどこで調べたのか、その年は絹婚式だと言って、ブランド物のバッグをプレゼントしてくれました。

これは、浮気を認めたのと同じこと。


きっと私が怒りもしなかったのが、気味悪かったのでしょう。

また帰宅時間が早くなり、食事や家族旅行に行こうと言いました。

きっと、その人とは別れたのだと思います。

※5


そして3年前、決定的な浮気が発覚。


「来週は出張なんだ。北海道から東北まで、営業所を全部回るんだ」


私は、その言葉に何の疑いも持ちませんでした。

いつも通り出張の支度を手伝い、主人を送り出しました。

帰宅するはずの日になり、夕方に食事の支度をしていたときです。

家の電話が鳴りました。


「△△旅行会社ですが、〇〇(夫の名前)さんのご家族ですか?」

「はい、家内ですけれど・・」

「ご主人の乗られるはずだった飛行機が欠航になりまして、

日本着が明日になりますので、連絡させていただきました。

天候の都合なのですが、ちょうどグアムの上空に低気圧が停滞してしまっているようなんです」


私は、了解したことだけ伝えて電話をきりました。

そして、すぐには事態が把握できませんでした。

何しろ、東北にいるはずの主人がグアムの天候の都合で、あす飛行機で帰って来るというのですから。

※6


5分も経たないうちに、今度は主人から電話がかかってきました。

「今仙台にいるんだけど、学生時代の友だちに会っちゃって、

今晩はソイツんち泊めてもらって、明日帰るよ」


私は何も言う気がしなくなり、静かに電話を切りました。


主人が、また浮気をしていること、出張と偽って、女性とグアムに行ったこと、次々と理解ができました。


私には、もう主人を追及する元気がありませんでした。


娘が受験を控えて大変なとき、夏休みの家族旅行も節約して、塾や私立学校に通わせるための学費を貯金していたというのに、こんなに甚だしい裏切りを働く主人のことなど考えたくもありませんでした。


主人はその後も、いつもと同じように過ごしていました。

娘は何も気づいていないようなので、私も何も言わずに仮面を付けたように接しました。

※7


数ヵ月経ち、私は久しぶりに高校の同窓会に出かけました。

自分の浮気で後ろめたい主人は、とても協力的で、

娘は任せろと言わんばかりの優しさ。


私は、存分に羽を伸ばしました。

日ごろのストレスや疲れもあったので、昔の友人との再会は、本当に心の底から楽しいものでした。

※8


中でも、高校時代に付き合っていたA君との再会は格別。

年をとったものの、話してみれば何も変わらず、しゃべっては笑い転げました。


バツイチになっていた彼は、きっと淋しさもあったのだと思います。


私たちは、連絡先を交換して、毎週のように逢いました。

深い仲になるのには、そう時間がかかりませんでした。


その関係も、はや2年、悪いことだとは知りつつも、私は幸せな毎日を過ごしています。


主人もきっと浮気を続けています。


ですから、私たち夫婦は仮面夫婦ということなのでしょう。

表面上は、皆がうらやむ夫婦、そして仲のいい家族なのです。


現状がベストとは思いません。

でも、娘のためにも波風を立てずに過ごしていくことが、私の務めだと思っています。


Rさん・43歳・女性

夫: 45歳

結婚:20年

子ども:1人・長女・18歳


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岡野あつこの離婚相談救急隊


※1

傍目には幸せだということも、妻にとっては満足の材料のようです。

本人同士が嫌でないのなら仮面夫婦もひとつの形かもしれません。


※2

あっさり認めての口約束ほど、あてにならなりません。安心、油断は禁物です。


※3

送り主の女性は、わざと自分の存在を知らせたかったのでしょう。

逆上せずに、しっかりと尋ねたことは、黙ってストレスを溜めるより、良いやり方です。


※4

表情で思わず白状してしまうことはよくあること。

このとき騒ぎたてなかったことに、夫は後ろめたさを感じたんだと思います。


※5

別れたという根拠が曖昧。

妻にバレてうるさく言われて、愛人と別れる夫の確率は50%以下。


ましてや、何も言わない妻だとしたら別れる確率は20%以下。


※6

これにはいくら浮気夫に慣れている妻も、ここまでのウソをつかれたら、怒るより呆れてしまうものです。


夫に対する信頼が崩れさる妻の気持ちが痛いほど感じられます。


※7

この妻は、自分の気持ちを犠牲にして、子どもの気持ちを優先したのだと思います。

何よりも子どもを動揺させなかったのは見事です。


※8

自分の気持ちを理解してくれない夫と比べ、昔の純粋に自分を理解してくれる友人たちの中には、

びっくりするほど素直に入り込めるものです。


【チェックポイント】

浮気はいけないものです。


子どものために自分を犠牲にして、夫からも裏切られ続け、我慢するよりはいいのかもしれません。


ただし、この秘密は、墓場まで持って行くくらいの覚悟で、自分の胸にしまっておくことです。


岡野あつこ