もし明日、自社の顧客情報が流出したら、会社はどうなるでしょうか。
取引先への説明、顧客への謝罪、原因調査、システムの復旧。
普段の業務を続けながら、これらの対応を進めなければなりません。
大企業なら専門部署が対応できるかもしれません。
しかし、中小企業では、経営者や幹部、限られた職員が通常業務を止めて対応することも考えられます。
復旧に時間がかかれば、売上にも影響する。
顧客からの信用を失えば、これまで築いてきた取引関係にも影響しかねません。
情報漏洩は、単にデータが外部に流出するだけの問題ではないのです。
「うちは狙われない」という思い込み
先日、サイバー攻撃をめぐる記事が目に留まりました。
攻撃者がAIなどの技術を利用し、
従来とは異なる形で企業やサービスを狙うようになっているという内容です。
特定の企業だけを狙うのではなく、広く対象を探し、弱点のあるシステムを攻撃する。
そんな状況が現実のものになりつつあります。
ここで考えたいのは、中小企業も決して無関係ではないということです。
「うちは小さな会社だから狙われない」
「盗まれて困るような情報はない」
「セキュリティ対策は一応やっている」
こうした考え方には注意が必要です。
企業が保有する情報は、
顧客の氏名や連絡先、取引内容、従業員の個人情報、会計データ、取引先との契約情報など、さまざまです。
自社では特別な情報だと思っていなくても、外部に漏れれば顧客や取引先に迷惑をかける可能性があります。
また、自社のシステムやメールアカウントが不正利用されれば、
取引先への攻撃の足掛かりにされることも考えられます。
会社の規模が小さいから安全なのではありません。
大切なのは、自社がどのような情報を持ち、どのような管理をしているかです。
AIは仕事を効率化する一方、使い方を誤ればリスクにもなる
人手不足が続く中、中小企業にとってAIの活用は大きな可能性を持っています。
文章の作成、資料の整理、情報の要約、業務手順の見直し。
これまで時間をかけていた仕事を効率化できれば、限られた人員でも、より多くの仕事に対応できるようになります。
だからこそ、AIの活用を一律に避ける必要はありません。
ただし、便利だからといって、何でも入力してよいわけではありません。
顧客の氏名や住所、個別の相談内容、未公表の経営情報、社内資料などを、
利用条件や情報の取り扱いを確認しないまま外部のAIサービスに入力すれば、
意図しない情報の取り扱いにつながるおそれがあります。
サービスによってデータの保存や利用の条件は異なります。
会社として利用するサービスを選び、入力してよい情報といけない情報を明確にすることが重要です。
さらに、AIを利用するのは仕事を効率化したい企業だけではありません。
攻撃する側もAIなどの技術を利用し、攻撃の準備や手口を効率化する可能性があります。
AIを導入すれば業務が便利になる。その一方で、情報を守るための備えも必要になるのです。
中小企業がまず取り組みたいこと
では、専門のIT担当者がいない会社は、何から始めればよいのでしょうか。
最初から大規模なシステムを導入する必要はありません。まずは、
基本的な管理を徹底することが重要です。
例えば、次のような取り組みが考えられます。
AIの利用ルールを決める。
会社で利用を認めるサービス、入力してよい情報、禁止する情報を明確にする。
パスワードと認証を見直す。 使い回しを避け、多要素認証など利用できる対策を取り入れる。
ソフトウェアを更新する。 パソコンやシステムを古い状態のまま使い続けない。
バックアップを確保する。 データが失われたり、システムが使えなくなったりした場合に備える。
職員への周知を行う。 不審なメールや添付ファイルへの注意、情報の取り扱いについて、定期的に確認する。
大切なのは、ルールを作って終わりにしないことです。
実際に守られているか、業務に合っているかを確認し、必要に応じて見直すことが求められます。
また、万が一情報漏洩や不正アクセスが発生した場合に、
誰に連絡し、どのように対応するのかも、あらかじめ整理しておきたいところです。
AIへの投資と同じように、守るための備えにも目を向ける
中小企業にとって、AIによる業務効率化は競争力を高めるための重要な選択肢です。
しかし、導入すること自体が目的になってはいけません。
どの業務で活用し、どのような効果を得るのか。
そして、どのようなリスクがあるのか。両方を考える必要があります。
情報漏洩が起きてから対策を考えるのでは、対応に追われるだけでなく、
顧客や取引先からの信用を失う可能性もあります。
特に中小企業では、一度失った信用を取り戻すために、多くの時間と労力が必要になることもあります。
AIを使わなければ、効率化の機会を逃すかもしれません。
一方で、リスクを理解せずに使えば、会社を支えてきた信用を損なうかもしれません。
業務を効率化することと、会社を守ること。
どちらか一方ではなく、両方を考えることが経営者の役割ではないでしょうか。
新しい技術を取り入れるときこそ、
その便利さだけでなく、万が一のときに何を失うのかまで考えておきたいものです。