こんにちは。
アレテーを求めて~
今日もトコトコ( ・ω・)
弁護士の岡本です。
今回の暮らしに役立つ民法は、『示談』のお話です。
示談と聞いて、
えっ、示談って刑事事件で出てくる話で、民法の話なの?
と思われた方が、ひょっとしたらいるかもしれません。
これ、実は、れっきとした民法のお話です( ・ω・)
わかりやすい例を作ってみましょう。
Aさんは、Bさんと口論になり、殴ってしまいました。
Aさんは、Bさんをボコボコにしてしまい、全治3週間の怪我を
負わせてしまいます。
これは、刑法では、傷害罪(刑法204条)にあたります。犯罪です。
刑法204条
人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
それでは、傷害罪の被害者であるBさんは、刑法によって、加害者のAさんに治療費や慰謝料を請求
できるのでしょうか?
答えは、
否です。
刑法というのは、犯罪に当たる行為をした者を国家が処罰するための法律
です。
犯罪行為をすれば処罰するという刑法によって、
被害者の法益を保護しようとするものが刑法です。
どんな行為からどんな結果が起こったら、どんな刑を科すかを決めているのが刑法です。
刑法は、被害者が加害者にどんな請求ができるかについては、何も決めていません。
それでは、被害者が、加害者に治療費や慰謝料等の損害賠償を請求するのは、何によってか?
それは、民法によってです。
条文を見てみましょう。
民法709条。不法行為の条文です。
民法709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法710条(財産以外の損害の賠償)
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
民法711条(近親者に対する損害の賠償)
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
刑事事件の被害者は、刑法によってではなく、このように、
民法の不法行為を根拠に、自分の受けた損害の賠償を加害者に請求できるということになります。
今回の例でいえば、Bさんに怪我をさせたAさんは、
刑法上、傷害罪となり、かつ、民法上の不法行為責任として、Bさんに損害を賠償しなければならない
ということになります。
たまに、刑事事件起こしても、示談すればいい(=金で解決できる)と勘違いしている人が
いますが、刑事上の責任と民事上の責任は、それぞれ別にあるということになります。
ということを前提にして、
示談って、なんでしょう?
『示談』という言葉は民法には載っていません。
『示談』を民法に書いてある契約で言い直すと、『和解契約』です。
これも条文を見てみましょう。
民法695条(和解)
和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。
被害者側が示談するメリットは、やはり早期解決です。
民事裁判をして全損害を完全に賠償させるには、費用も時間もかかります。
証拠が足りなければ、希望通りの賠償額にはならないリスクもあります。
加害者側は、示談することで、被害者に対する損害賠償の問題は終わりにすることができます。
そして、被害者に対して誠実に被害弁償の対応をして、
示談という形で一応の被害回復(真に事件前には戻せません。)をしたということが、
捜査段階では検事の起訴猶予の判断に、公判段階では裁判官の執行猶予付判決や減刑のうえでの
大きな考慮材料になります。
ちなみに、交通事故の場合、任意保険に入ってると保険会社が間に入って、
保険金の支払いをすることになりますが、あれも保険を利用した示談の一種です。
人身事故を起こして任意保険に入っていないケースでは、自費で示談できなければ懲役行くことは覚悟しておく必要があります。
車に乗る人は、自賠責はもちろん、任意保険にも入っておきましょう。
なお、傷害事件の示談金は、通常20万~50万円くらいが多いでしょうか。
後遺症が残る等の重症を負わせたケースでは、もちろん、交通事故並みかそれ以上の賠償金になることもあります。
強制性交等罪のような残酷な性犯罪の場合は、200万円や300万円支払っても、まず被害者は許してくれません。
(民事上の責任を解決するという意味での示談には応じてもらえることもなくはありません。)
示談交渉自体を拒否されることも多いです。
お金で償えるものではないですから。
殺人罪の場合はどうか?
あなたの大切なご家族が殺害されたとして示談に応じますか?
基本的には、示談など無理と思っておいてください。
犯罪や不法行為になるようなことなど、しないのが一番です。
でも、加害者になってしまった場合は、
せめて、誠実に被害者に対応していきましょう。
どんな対応が事案にふさわしいかは、事案ごとに異なるので、
個別具体的な事案については、きちんと弁護士に相談してください。
少し、刑事弁護チックなことも書いてしまいました、
これが、和解契約としての『示談』のお話です。
読んでくださり、ありがとうございました。