入院中の父の病状は、一進一退を繰り返している。


昨日は、ロッテのグリーンガムが食べたいというので、病院内のコンビニで購入する。


グリーンガムを所望する父の言動も謎だが、「このガムまだ売ってたんだびっくりマーク」という驚きの方が大きかった。



最近は、病室で父が好きな大相撲を一緒に観るのが日課だ。


「今日は中日か」と口にするなど、意識がしっかりしている時もある。


本来、面会は30分以内との規則があるが、ここ数日、なかなか父が私を帰してくれない。


昨日もなんとか父を説得し、病室をあとにした。


いつも強がりばかり言っていても、本当は寂しがりやな父なのである…



ある日の面会後。


家に帰るのに、バスが来るまでファミレスのちょい飲みで時間をつぶしていたが、気が変わり歩いて帰ることにした。

 

月を見上げながら歩くうちに頭に浮かぶのは、父のことではなく、お世話になった歯医者の先生のことだった。


2カ月以上、毎週のように通う中で知ることとなった、先生のさりげない優しさや会話の数々を思い出し、あとからあとから涙が溢れて止まらない。


少しお酒が入っていたせいか、先生が亡くなって二度と会えなくなることまで考えてしまう。



私は、きっとまた先生に診てもらえるだろうと、高を括っていたのだが、紹介状を書いてもらったということは、先生は別の先生に私を託したのだ。


今になって、ようやくそのことに気付く。


「相性が合わなければ、また戻ってくればいい」との言葉は、先生なりの優しさだったのだろう。


先生との本当の別れを悟った、月の綺麗な夜のことでした🌝