人生における偶然と必然。
私は運命論者でもなんでもないが、流れに任せるままこれまで生きてきた。
裏を返せば、能動的な人生を歩いてこなかったということだ。
と、いつになく大げさな前振りとなったが、今日は仕事帰りにストリートピアノに寄った時の話をしたいと思う🎹
昨日今日と二日続けて、とある場所のストリートピアノを弾いた。
今日のこと。
しばらく自分の演奏順が来るのを待っていたが、先に弾いている人が譜面台に楽譜を立てて練習している風だったので、まずはお茶でもしようと近くの店に入ろうとするが満席の気配。
仕方なく踵を返し、ピアノがある場所へ戻ると、先ほどの男性が名探偵コナンのテーマを弾いていた🕵️
短調の旋律がもの悲しく、こんなにいい曲だったのかと思わされる。
演奏を終えた男性が彼女と思しき女性に向かって、「どうだった?練習の成果が少しは出てた?」と聞いている姿が微笑ましかった。
やっと私の番となり、いつもの曲を一通り弾いていると傍らに人の気配がする。
演奏する手を止め振り向くと、高齢の女性が何やら私に話したそうにしている。
自惚れ屋のおかめ、てっきり演奏を褒めてくれるのかと思いきや、その女性は私に向かってこんなことを言った。
「ピアノを弾く人に引き取ってほしいものがある」と。
その表情からは深刻さがうかがえる。
何かと聞くと、楽譜だという🎼
「お父さんの楽譜なんだけど、捨てるに捨てられなくて。
こうしてピアノを弾く人にもらってもらえれば、お父さんも喜ぶと思う」と言うではないか。
ここまで言われて断ったら、女がすたるというものだ。
「それじゃ、私がいただきます」と言うと、楽譜はすでに玄関の前に準備してあるという。
引き取りに伺おうかと提案するも、家はすぐそばだから今すぐ持ってくると言う。
「ピアノ弾きながら待ってて」とその女性に言われるがまま、雨だれの練習などしながら待つこと約5分。
先ほどの女性が、両手に大きなビニール袋を提げて現れた。
「要らなければ捨ててもらって構わないから。でも、こうしてもらってもらえば、きっとお父さんも喜ぶわ」と、その女性は念を押す。
私は「ありがたくいただきます」と、その袋を受け取った。
「お父さん、ピアノが好きでね。あー、お父さんきっと喜ぶわ」と言いながら、その女性はもと来た道を戻っていった。
仕事先からのいただきものや買い物をしたこともあって、私の両手はすでに埋まっていた。
まずはどこかに腰を落ち着けようと、近くのお店に入る。
席に座り早速袋をあけると、古い楽譜やCDが出てきた。
ツェルニー、ソナタの教則本、全音ピースやコピー譜、シャンソン、ポピュラーの楽譜など、そのジャンルはさまざまだ。
楽譜はそうとう古く、一つ一つ丁寧におしぼりで汚れを拭き取る。
楽譜の持ち主だった男性は、ひょっとすると独学か幼い頃にピアノを習っていたのだろうか。
私にも弾けそうなレベルの楽譜が多い。
詳しい話は伺わなかったが、女性は旦那さまが亡くなったあと、楽譜を処分しようにもできず困っていたのだろう…
私があのタイミングでピアノを弾いていなければ出会うことのなかった偶然もしくは必然。
人生って、たまにこういう不思議なことが起こりますよね。
楽譜、大切に使わせていただきます