●注!!ネタバレ感想です。 子供たちは夜と遊ぶ● | 君 次 第 ο

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斜め前向きに生きているο

※これは辻村深月さんの【子供たちは夜と遊ぶ】のネタバレ感想になります。

 未読の方、ネタバレが嫌だという方は1つ前の記事を読んで頂きたいと思います。


 また、これはかの汰個人の感想になります。

 多少批判めいたことも書かせて頂きますので、読んで不快に感じる恐れがあります。 


 以上のことを了承頂ける方のみ、下へお進みください。






さて、長めの注釈をさせてもらいました。

それだけこの本の感想は自分の心に正直に書きたいと思ったからです。



まず、メイントリックの浅葱と藍のことから。


これは最初の方から予想してました。

二重人格、って今やサイコ殺人ものの王道トリックにもなってますよね。

先入観ができちゃってて、そんな自分が少し残念です。


そんなこともあって疑いながら読んでたのですが、

ミステリ好きながらあまり推理しながら読むタイプではないので、

かなりミスリードに流されがちではありました(-ω-;)



私が二重人格説に多少自信を持ったのが、

藍が母親を殺し、浅葱に手をかけた事件が強盗殺人として扱われたこと

です。


藍が母親を殺したなら、子供による母親殺しの異常犯罪として扱われるのでは。

物語中で事件後のことはかなり曖昧に書かれていました。


私は

「始めから藍は存在せず、浅葱の二重人格である」

と考えてましたが、藍はいました(笑)


担任の先生の証言とか出てきて、

「あ、違うじゃん」

って落ち込んだのは秘密。



ここから2人の浅葱について書いていきますが複雑になるので、

最後に狐塚に供述している方を浅葱、大学生活を送っていた方を『浅葱』とします。




元々あった人格の方が浅葱だったというのは、なかなか新しい二重人格ものだと思いました。

通常は異常人格が後から形成されて、事実狐塚もそう思っていました。

ここがこの作品で一番のどんでん返し。

ただの二重人格ものだと思って最後まで読んだ読者への裏切りだと思います。


これは作中で読み取ることはできません。

私は作品に騙されるのが大好きなので、これは嬉しい展開でしたねヘ(゚∀゚*)ノ



・浅葱は何をしたかったのか


何回も読み直しました。

なぜ浅葱は殺人ゲームをしようと思ってしまったのか。


結局、殺人ゲームをしたかったのは『浅葱』の方でした。

兄が死んでいるという事実を拒むためのゲーム。


かつて兄の死を受け入れられず、自分より人間らしい人格を、と生み出した『浅葱』もまた、

i(上原愛)を殺してしまった。



先ほど書いた二重人格のことですが、

異常人格だったのは実は『浅葱』の方だったのかもしれない。


人への感情が薄い自分、それゆえに教室で癇癪を起してしまい母親に虐待を受け、

結果として兄にも虐待を受けさせた自分。

そしてその末に、自己防衛ともいえる形で兄を殺した自分。


自分とは違う、人間らしい『浅葱』を作りだすことで、罪から逃げた浅葱。



それに対し『浅葱』は根底に世間への復讐心を持っていた。

更に上原愛が兄ではないと知った瞬間、意識を浅葱に渡し、

上原愛を殺すように命じた。


どっちが異常でしょうか。



話を戻します。

殺人ゲームを発案したのは浅葱だと言っています。

しかしその原動力となったのは『浅葱』の根底にあった世間への復讐と藍に殺される願望でした。


浅葱を人として殺す選択肢は、殺人ゲームの他にもあったと思います。

それでもなぜ、しっかりした自己を持つ浅葱が殺人ゲームを選んだのか。



私の仮説の1つとしては、『浅葱』にも殺人の罪を背負わせること。

藍を殺したのも、上原愛を殺したのも浅葱でした。

自分だけがその罪を背負うことに憤りを感じ、殺人ゲームという形で

『浅葱』にも人を殺す気持ちを味わわせるという、恨みの気持ちだったという説です。



もう一つ仮説があります。

難しく考えることではなく、『浅葱』の秘める世間の復讐心を果たしてあげたかった。


そんな浅葱の、『浅葱』に対する無意識で盲目の愛だったのではないでしょうか。

個人的にはこっちの方が救いがあって好きです。



・なぜ左目を刺したのか

ここがわからないです。

『浅葱』が右と言ったにも関わらず、浅葱は左目を刺した。

上原愛はちゃんと右目を刺したはずです。


藍と同じ目を刺すことで、今まで浅葱の中に根付いていた藍を殺そうとした??

こじつけはできますが、本当のことはわかりません。



・寄生について。

今作の重要な軸となっている『寄生』


最終的にアサギマダラが浅葱、マダラヤドリバエが『浅葱』ということでしょうか。

浅葱は『浅葱』に自分の主導権を渡し、肉を食わせていた??


浅葱もきっと死にたかった。

そのために『浅葱』を寄生させた。


月子は蝶の羽化を見ました。

羽化して蝶になった月子に対し、浅葱にも『浅葱』にもそれは叶わない。

そう考えると切ないです。



・『浅葱』は失われてしまったのか


左目を刺して以降、『浅葱』はいなくなったと書かれています。

最後に月子に会いに来たのも浅葱のようです。


浅葱は『浅葱』が月子を好きだったことを伝え、去っていきます。


浅葱は『浅葱』が生きていることを信じている。

『浅葱』にとっての支えが月子であるように、

浅葱の支えは『浅葱』なのだと思います。


月子が生きていることで『浅葱』は生きられる。

そして『浅葱』がいるから浅葱は生きていける。


どこかにいる『浅葱』が死なないために、浅葱は月子に会いにいったのだと思います。


個人的には浅葱に会うことで月子の記憶が戻ったという、

ロマンス的な想像をしております(笑)




続いて、狐塚について。


・狐塚と月子の関係については、完全に予想外でした。

ずるい。ここが一番アンフェアに近いところではないでしょうか(笑)


完っ全に恋人だと思ってたよ!!

なんで浅葱は2人の関係を知らなかったんだよ!!!!おかしいだろ!!!


メインのトリックではなかったとはいえ、ちょっと悔しいです...。



辻村さんは平凡で良い男性を多少使い捨てっぽく使うことがありますよね。

メインには絡ませないという。

個人的には断然狐塚押し!!!!だったので、残念。


狐塚は最初から最後まで良い人でしたね。

絶対裏があるはずだ!!と思ってたのですが←




こっからは気になった点を徒然と。



・秋山先生や恭司の伏線が曖昧なままでしたね...。

ミスリードさせるためだったのかな。

他の作品で登場したりするのでしょうか。



・ラストは恭司がイケメンでした。


どなたかの考察で

「浅葱が恭司として会いに来たから、恭司はもう月子に会えない。

そこまでの決意を持って恭司は浅葱に面会させたのだ」

というのを見て、これはあまりにも救われない...と思いました。゚(T^T)゚。


そのこともあって「月子、記憶戻る説」を提唱したのですが、

記憶が戻っても月子はきっと浅葱が好きなわけで...。


どうしても報われなくて涙が出ます...。



・後半から一気に『浅葱』が月子を好きになりすぎでは??


【スロウハイツ~】の時にも思ったのですが、

下巻から一気に相手のこと好きになりすぎではないでしょうか...。

そんな支えになるほど月子のこと好きだった感なかったじゃん。


辻村さんの書く恋愛はややこしい。

そんな回り道とか隠したりとかしないでさっさとくっつけばいいじゃん。

...と、恋愛偏差値底辺のかの汰は思うわけです。



・蠅とアブラムシ、蝶とトンボの話


「どうして蠅やアブラムシを殺していいのに、蝶やトンボは殺しちゃいけないの?」

そんな問いが作中に出てきます。


一番単純な回答としては

「自分に害を与えるから」

ということかと思います。


じゃあ人間は?

自分にとって有害な人間はたくさんいるよ?


そう聞かれると答えに困る。


私の答えは単純で

「自分がされたくないから」

だけです。


でもお前は自分がされたら嫌なことを蠅やアブラムシにするのか、

と言われるかもしれないですが、そこには「人間か否か」という明確な線引きがあります。


しかしその線引きが「人種」に変わった瞬間、虐殺が起こることもある...。

自分の思想が危険思想に近いことも自覚があります。



そんな中、作中で狐塚が導き出す答え

「蠅やアブラムシを殺さない選択する場合も、人間にはある」

というのがとても好きです。


シンプルだけど、眼から鱗でした。

こういう考え方できるのって素敵。

やっぱり私は狐塚が好きです←



・「自分と自分との心中」って何かいいなぁ。




今さらですが、かの汰の感想は


・浅葱→→『浅葱』→←月子

・『浅葱』→藍


という感じで書いてます。


誰からも愛されなかった浅葱。

『浅葱』は藍を求めていた。

浅葱が藍として罪を犯すのが、どれだけ辛かったことでしょうか。


きっと一般的には『浅葱』と月子の恋愛に心打たれる作品なのかと思いますが、

私には浅葱がかわいそうでならなかった。


どうか、彼に救いを。

『浅葱』が、誰かが彼を救ってくれますように。



本当に衝撃の強い作品でした。

10人以上の人が死んでるわけです。軽く読める作品ではない。


本当に読むの疲れた...。

こんなに考察書いたの初めてです。


きっとこれから先、発作的に読み返したくなる1冊だと思います。