18歳の頃。
ヨシキくんは時々、地元福島から一人暮らししていた僕の家に泊りに来てました。
男同士、部屋で仰向けになり、天井を見上げながら語ったのも良い思い出です。
『あ』
何かに気付くヨシキくん。
「どうした?」
と訊く岡田。
『い、いやなんでもないっス……』
「何だよ、いいから言ってみろよ」
『いやホントくだらない事なんですよ……』
「気になるんだよ! いいから言えよ!」
『あ、あの天井の蛍光灯のカバーでプリン作ったらうまそうだなぁって……』
「………………」
(確かにくだらないわ)
そんなヨシキくんがある日、地元福島からわざわざ彼女も連れて来ました。
彼女の名前はミドリちゃん。
岡田は思いました。
(あ! この子ミニラに似てる!)
しかし、後輩の彼女なので口が裂けても言えません。言った気もします。
彼女は僕と友人達に地元福島の恐い話を聞かせてくれました。
『あたし達の地元に○○ってトンネルがあるんだっけ……』
そう言って僕を見るミドリちゃん。
『そのトンネルにはコツコツさんが出るんだっけ……』
そう言ってTJを見るミドリちゃん。
『いや、俺に聞かれても分かんねぇよ』
とうとうTJがツッコミました。
関東人からしたら疑問系に聞こえる語尾の[ダッケ]は福島弁。
じゃあ実際に疑問を投げ掛ける時は、
『篠原涼子の大ヒットシングルは愛しさとせつなさと心強さと何だっけだっけ?』
って訊くのか話題に。
そんな日からしばらくして、ミドリちゃんとヨシキくんは別れてしまいました。
どうやらミドリちゃんが浮気をしたそうです。
その話を聞いた直後、岡田の部屋にドデカイGが出現しました。
「アァ超ぅ!」
という掛け声と供に、Gをスーパーの袋に捕獲した岡田。
袋を二重にし、ゴミ箱に入れました。
しかしさすが驚異の生命力、カサカサ動いています。
「じゃあこれ、今日からミドリちゃんな!」
僕は家に来た友達全員にアホな宣言をし、捕獲したゴキブリに名前を付けました。
ちなみに元彼の了承は取りました。取って無い気もします。
それからというもの、内輪の間でミドリちゃんは話題に。
『ミドリちゃんまだ生きてる?』
「うん、まだカサカサしてるよ」
初めて僕の家に遊びに来る女の子には、
「ほら、あの袋の中にミドリちゃんがいるよ」
『ミドリちゃん? 何それ?』
「うん、まぁ大体想像つくだろ?」
こうしてミドリちゃんは僕の家の名物になりました。
ちなみに1ヵ月でやっと音がしなくなりました。
おしまい