──7月。太陽の下、元気良く仕事をする若者2人がいます。
「今日みんな休みだな!」
『だね! 帰っちゃう?』
「あはは! それもいーな! おまえはマジカスだな!!」
『あぁ! おまえはクズだもんな!』
『アハハハハハハ!』
──どしゃ降りの雨の中、だるそうに仕事をする若者2人がいます。
「おぉ! マジ雨が痛いゼ!」
『つうかマジだりぃ! 帰りてぇ!』
「何!? 雨の音で聞こえねぇ!!」
『何でもねぇ!』
「は!?」
『何でもねぇ!』
──現場は林が近いからジブリのように現れるバッタやムカデ、カエルにミミズなど訳の分からない虫。
「おぉミミズだ! ホウキではいちまうぞ!」
『やめろよ! 生きてんだよ!?』
ミミズだろうが訳分からない虫だろうが、一匹一匹、枝で捕まえ、逃がすケンケン。
『ニャーゴ! おまえは楽そうでいいなぁ! 俺の代わりに仕事してくれよー』
野良猫に話しかけるケンケン。
俺はおふくろが作ってくれた弁当を食べながら、それを見てたんだ。
免許ねぇ俺の為に、職場まで毎日嫌がらずに送迎してくれてんだ。
就活の繋ぎの仕事のつもりが、就職なんてどうでも良くなるくらい、おまえとこの職場で働いてんのが、たまらなく楽しかったんだ。
楽しかったよなぁ、もちょっとこんな生活が続けばって思ったんだ。
もちょっとお日様の下で、おまえと働きたかったんだよ。
けど事務所の会長に呼ばれたケンケン。付き添いで一緒に話を聞いた俺。
『君には別の現場に行って欲しいんだよ、岡田くんの事は心配しなくていいから』
突然の通告。ケンケンには選択の余地は与えられなかった。
明らかに迷うケンケン。
正論を並べる大人の押しに、俺はキレそうになるのを必死で押し殺してたんだ。
わがまま通せる程子どもじゃない、けど素直に言う事聞く程オトナでもない。
──次の日の休憩中もずっと迷うケンケン。
『マジ迷うわぁ』
「俺達はこんな仕事で終わる人間じゃねぇ、人生ん中じゃ石コロみたいなイベントだ。選択肢は自由だよ」
『ハハ、だよなぁ……』
仕事に戻ろうとする俺にケンケンは言ったんだ。
『おぉ、もう一服しようぜ』
「ん? すまん聞こえなかった」
『……いや何でもない』
本当は聞こえてたんだ。
でも、もう一服しちゃいけない気がしたんだ。
この時間がとても大切過ぎて、甘えそうだったんだ。
──しばらくしてケンケンは現場が変わり、僕は仕事を辞めました。
これがお互いの人生にとって前進なんてキレイ事はクソくらえ。
いたい奴といたい時に一緒にいたいんだ。
わりと毎日一緒にいたのに、楽しかったなぁ。
おしまい