学生のある梅雨の時期。



派遣のお仕事をしていました。


力仕事で外仕事でしたが、意外と楽な仕事内容。



給料は日給9500円


 
1日頑張り、次の日にはお給料が貰えるので事務所まで貰いに行きました。



その仕事で貰えた初給料。



手渡しで貰える封筒には、昨日の頑張り9500円。



(やったー!何か買お!)



お金を手にした僕に、貯金という選択肢は皆無です。



僕はその足で100円均一のお店へ。



雑貨を買いました。



次に本屋へ。



(あ、新南国少年パプワくん出てる♪)



普段なら買えない漫画という高級品も、今なら余裕で買える経済力。



俺の財布にバブルはきた!



バブル勢いで買うパプワ!


単行本をレジに持って行き会計。



(ハッ、たかが400円なんて安いものさ!)



なんて考えながら、財布の中の給料袋を取り出そうとしました。


(……あれ?)


 
財布にしまった給料袋がありません。


「すみません……お金落としたみたいなんで、それ、いいです……」


20歳にして400円の誤算を突き返すという醜態。



しかしそんな恥よりも今は約9000円の入った封筒です。


本屋を練り歩いてもありません。



来た道を探しても見つかりません。



100均に行ってもありません。



どしゃ降りの雨の中、我が子を探す母の様なテンションで自分の給料を探すタンクトップ。


 
(何よりも自分のお金で誰かが得するのが気に入らねぇ!)



しかしどこにも無い!



もしかしたら始めから僕は給料を貰って無かったのかも知れません。



確かな事は、もう一度事務所に行っても給料は貰えない事です。


給料無しでの手持ちのお金は約200円。



家まで帰る電車賃には足りません。



僕はある記憶が甦りました。



高校の頃。電車賃が足りなくて家に帰れない時。



駅周辺の若者に



「すみません、一発芸するんでおもしろかったら10円ください」



という芸人魂を見せ、見事目標金額270円を稼ぎました。



おもしろいかは微妙ですが、優しい人は50円くれました。


(また……アレやろうかな……)



頬をつたう温かい水。



(やっぱ恥ずかしくてできねぇや……)



涙なんかじゃない、きっと雨だ。



9000円無くしただけで、自分の老いを感じた20歳の俺。



この先の人生で、タンクトップ着るのも恥ずかしくなるなんて夢にも思いません。


結局その場から一番近いコウちゃんに電話し、1000円借りました。


結局初給料で買えたのは、100均で買った手ぬぐいとレインコートとお菓子。



約300円の買い物でしたが、9500円というアホな価値になってしまいました。