22歳くらいの夏の昼。
僕は後輩と出会い系サイトを見てました。
すると変わった書き込み。
『ホストになりたい人募集』
最近は知ったこっちゃありませんが、当時多かったのが、従業員のネット上スカウトです。
常識的に考えたらちょっと怪しいですよね。
麦わらの一味じゃあるまいし、のこのこそんな募集に飛び乗る奴なんて普通いません。
こんな怪しい話に乗る奴はもはや海賊です。
僕は海賊です。
写真とプロフィールを送りました。返事が来ました。
『とりあえず今夜面接しませんか?』
「じゃ俺、行ってくるわ!」
とブルックでも仲間にするようなテンションで、後輩とさよなら。
後輩は心配そうにドン引きしてました。
家にスーツを取りに行ってから、新宿歌舞伎町へ。
待ち合わせ場所には売れなさそうなホストが4人。
雑談をしながらお店へ。
簡単な面接の後、体験入店決定。
ちなみに僕は経験者ですが、待遇はまったく関係ありませんでした。
最初はテーブルマナーでも教わるのかと思いきや、まずは便所掃除。
つうか入店してからじゃねぇの? 普通。
そしていよいよ開店。
ヘルプかなと思いきや、早速大好きなキャッチ。
キャッチして女の子を連れてくるまでお店に入れない人身御供(ひとみごくう)システムだそうです。
しかも体験入店だと給料でません。
(それ先に言えよ)
というわけで、歌舞伎町のドン・キホーテの前で4時間近くひたすらキャッチしてました。
当時は風営法が変わる前で、漁獲量マックスでピチピチとしたホストが、一番街で踊っている深夜が体験できました。
メートル四方でお店ごとのテリトリーが決まっていて、それを侵したらアウト。
タブーを監視する、龍が如くみたいな皆さんがいて、
(夜中の歌舞伎町、マジ怖ぇ)
とビビりながら、
「ひらけ! ポンキッキ!」
とか言いながら女の子に声かけてました。
他のホストさん全員に
「シンちゃん、いつもあんな声のかけ方してん!? ぶひゃひゃ、マジうけんだけど!」
とか言われて仲良くなりました。
楽しくやってましたが、だんだんだるくなりました。
(つうか飲みてぇ……)
当時アル中だった僕は、だんだんムカついてきて、本気を出して女の子を3人マスターボール。
そのままお店に連れていき、接客。
僕はここぞとばかりに、浴びる程お酒飲みました。
給料出ないならタダ酒飲んで元取ろうとしたのです。
結局閉店前に帰りました。
うれしい事に店長さんには
「ぜひ働いて欲しい、君が欲しい」
と言われたり、同僚さんに
「君、マジすごいよ! 本当に勉強になった! ありがとう!」
と、なんか別のセミナーに参加したみたいなフレッシュなこと言われました。
この後しばらく遊ぶ、平井堅に似ている沖縄人ともここで知り合います。
雰囲気のいい店でしたが、実はシフトが合わなかったりしたので丁重にお断わりしました。
やらない理由に
「実は既婚なんです」
とか大嘘も吐きました。
仲良くなったホストさんに駅まで見送くられ、気持ち良く酔って、早朝の歌舞伎町を後にしました。
おしまい。