ども、昨夜お好み焼きを食べて「なぜ自分がお好み焼き屋を開いていないのか?」が不思議になった岡田達也です。
昨日のつづき
*
救急隊員の方が私の方を向いて言った。
「では、次の方」
「はい」
私は前に出た。
12番目だった。
予習復習する時間はたっぷりあった。
昨日までの日記には書いてなかったけど、
私たちの相手は
胸骨圧迫と人工呼吸ができるように仕立ててある
上半身だけの人形(救命くん)だ。
私は、救命くんを見つめた。
「では、お願いします」
……
……
心を落ち着け、ひとつ息を吸った。
私は目を見開き、左右を確認した。
「安全確認よ~しっ!!!」
救急隊員の方がびっくりして言った。
「あ、いや、そこは省いてもらっても……」
私は、右手で彼を制して、次に進んだ。
最初は遠目から、声掛けだけ
「もしもーし、大丈夫ですか?」
二度目は人形の左肩を叩きながら大きな声で
「もしも~し! 大丈夫ですか?!」
三度目は人形の両肩を強く叩きながら、耳元で大きな声で
「もしも~しっ~!!!! 大丈夫ですかっ????」
相手は人形だけど、それでも反応を拾うんだ
見るんだ
相手を
演劇の世界で教わってきたことじゃないか!!!
周囲がドン引きしているのがわかる
わかるぞ
かまわず進んだ
「だれか~! 誰かいませんか? 人が倒れています!!!!」
‟なんだこいつ?”
そんな目をして私を見ている最前列の方に声をかけた。
「あなたは119番に通報をお願いしますっ!」
「は、はいっ」
言われた相手は気圧されていた。
隣の人に声をかけた。
「あなたはAEDを探して戻ってきてください!」
「は、はい」
よし、次だ
今は一刻を争うんだ
息をついている暇などない
「呼吸の確認っ!」
私は人形の胸を見た
「1、2、3、4、5、6。呼吸なしっ!!」
ここまでは完璧だ
ちゃんと展開している
そして周りの人は引いている
いいよ
いいよいいよ
舞台上で観客のみなさんが引いてる瞬間なんて一瞬でもあってはならないことだけど
何度も経験してきたからこそ、その空気感はよくわかる
‟引いてる!”
‟みんな引いてるぞっ!!”
”でも行くしかない!!”
‟ショーマストゴーオンだろっ!!!”
「胸骨圧迫開始します!!!」
私は救命くんの胸にしっかり組んだ両手をあて、
両ひざを垂直に立て、
最も効率的に力が伝導する角度を狙って心臓マッサージを始めた。
救急隊員の方の説明はこうだった。
「1分間に100~120回くらいのペースです」
思い出すんだ……
キャラメルボックスの稽古でストレッチをリードしているとき
例えば
「じゃヘッドロールから。ワン、ツー、スリー、フォー」
というふうにカウントを入れるのだけど、
基本的に1秒に1カウントを心掛けていたんだから、あのテンポ感を倍速でいけばいいはず
「1、2、3、4、5、6、ーー29、30!」
よし、次だ
「人工呼吸を行いますっ!」
救命くんのあごを持ち上げた
「気道確保!!」
用意されていたペーパーを挟んで
「フー、フー」
2度の人工呼吸を行い
「1、2、3、4、5、6、ーー29、30!」
再び、胸骨圧迫に戻った。
ようやく救急隊員の方から
「あ、あ、ありがとうございます!」
という声がかかって私の実技は終わった。
つづく