ども、岡田達也です。

 

 

 

 

鳥取市には『亀井堂』という老舗のパン屋さんがある。

 

『亀井堂』の商品の一つに『マイフライ』というパンがある。

 

「鳥取のソールフード」と呼ばれ、多くの市民に愛されている一品だ。

 

その実態は“こしあんを食パン2枚で挟んで油で揚げてある”という

 

なんともパンチの効いたカロリーの塊で、一袋当たり約500kcalある。

 

今思えば恐ろしい商品だし絶対に食べることはないが、僕が高校生のときにはたいへんお世話になったものだ。

 

昼休憩の弁当まで待てずに、2限目が終わると購買部にダッシュして『銀チョコロール』か『マイフライ』をゲットしては腹を満たしていた。

 

育ち盛りな高校生には大人気商品だった。

 

ちなみに、当時我々の間では「揚げパン」と呼ばれていた。

 

 

 *

 

 

数日前

 

父・隆夫さん(89)が言った。

 

「亀井堂のマイフライって売ってるんか?」

 

「あぁ、あるよ」

 

「テレビで見てなぁ。美味しそうだったなぁ」

 

「好きな人は好きだろうね」

 

「そうか」

 

「食パンであんこを挟んで揚げてあるから、お父さんにとっては好きなものだらけだよ」

 

「そうか」

 

「食パン、あんこ、揚げ物」

 

「おいしそうだなぁ」

 

「好みはあるけど」

 

「さぞおいしいだろうやぁ」

 

「あまり期待しないほうが」

 

「おいしいなぁ」

 

「……まだ食べてないよね?」

 

「一つ買ってきてぇな」

 

「わかった」

 

 

翌日

 

「夕食の買い物してくるわ」

 

「マイフライも頼むで!」

 

「あ、それはもう買ってある」

 

「そうか!」

 

「うん」

 

「今、食べるわ!」

 

「……夕食前だよ、やめておきなよ」

 

「じゃ、半分だけにしておくわ!」

 

「あのさ、朝食に1枚の半分しかパンを食べない人が、マイフライを半分食べたら気持ち悪くなるって」

 

「……」

 

「もうすぐ夕食だし」

 

「……」

 

「だから今はーー」

 

「わかった、わかった!」

 

「……」

 

「わかった、わかった、わかった、わかった!」

 

「……」

 

「わかった、わかった、わかった、わかった、わかった、わかった、わかった、わかった、わかった、わかった、わかった、わかった!」

 

殿様はすっかりへそを曲げてしまった。

 

が、仕方がない。

 

心を鬼にしておやつを阻止しないと、台所番の料理は食べてもらえないだろう。

 

それは困る。

 

 

そして昨日

 

僕が仕事に行っているうちにようやくマイフライを食べたらしい。

 

「どうだった?」

 

「あぁ、マイフライな~」

 

「うん」

 

「ふつう」

 

「え?」

 

「ふつう」

 

「……」

 

「もうええわ」

 

「……」

 

「もう買わんでええわ」

 

そう言って殿様は胸の前で×を作った。

 

 

 *

 

 

何度も書くがーー

 

この男、味覚がお子ちゃまのまま老人になってしまったので、味の想像がまったくできない。

 

例えば「回鍋肉」をテレビで見ると「おいしそうだなぁ」となる。

 

キャベツ、豚肉、茶色いタレという情報だけなので、ギリギリ理解できる範囲の料理なのだ。

 

ところが「肉野菜炒め」とか「酢豚」になると、入っている具材の数が増えるのでもう付いていけない。

 

「ごちゃごちゃしとるなぁ~、あれはいらんわ!」となる。

 

ま、頼まれても絶対に作らないが。

 

 

言っておくが「マイフライ」はさっき説明した通りで、

 

“こしあんを食パンで挟んで油で揚げたもの”でしかない。

 

それ以上でもそれ以下でもない。

 

そんなに難しく考えなくても、想像できるんじゃないだろうか?

 

……と私は思ってしまうのだが、隆夫さんは想像とずいぶん違ったらしい。

 

 

いつも思う

 

テレビに映し出される食べ物たちは、この人の脳内でどれほど美味しく再生されているんだろう?と

 

ある意味幸せな人かもしれない。

 

 

 

 

 

 

では、また。

 

 

 

 

追伸

 

ちょっとフライングですがーー

 

オンライントークショー『東京砂漠』

 

今日か明日には次回の告知ができると思います。

 

8日土曜日、19時30分スタート予定です。