ども、金の鶏だしにハマっている岡田達也です。

 

 

 

 

亡き母・秀子さんに言われたことがある。

 

「あなた、吉田類さんみたいになればいいのに」

 

そのとき、僕は類さんの存在を知らなかった。

 

「……吉田類? って誰?」

 

「BSで『酒場放浪記』って番組があってね」

 

「うん」

 

「吉田類さんがいろんな酒場に行って飲んで食べるの」

 

「はぁ」

 

「で、俳句を詠むの」

 

「はぁ」

 

「そんな番組」

 

「それだけ?」

 

「それだけ」

 

「へぇ」

 

「あなたにピッタリな仕事でしょ?」

 

秀子さんが自分の息子のことをどう捉えていたのか?

 

それがハッキリするステキなエピソードだ。

(……親子ともども大丈夫か?)

 

 

聞けば、実家では毎週『酒場放浪記』の時間に合わせて

 

父・隆夫さんと母・秀子さんが少量の酒とツマミを用意しながら見るーー

 

というのがお決まりになっていたらしい。

 

とても微笑ましいステキなエピソードだ。

(本当にそう思っていました)

 

 

 *

 

 

時が流れ

 

秀子さんが他界し、僕が鳥取に戻ってきたときのこと。

 

『酒場放浪記』を見た方がいいのだろうと思いチャンネルを変えたところ、

 

隆夫さんが血相変えて言った。

 

「酒場放浪記か?」

 

「うん」

 

「見んで!」

 

「……えっ?」

 

「見んけなぁ!」

 

「あれ? おかあさんと一緒に見てたんじゃないの?」

 

「昔はなぁ! 今は見とらん!」

 

「なんで?」

 

「おとうさんなぁ!」

 

「うん」

 

「類さんのことが嫌いだ!」

 

「は?」

 

「類さんが嫌いだ!」

 

「どうして?」

 

「だってなぁ!」

 

「うん」

 

「あの人はお店に入って、必ず女の人のところに行って乾杯しとるけなぁ!」

 

「……」

 

「かならずだで!」

 

「……」

 

「女の人のところに行ってなぁ!」

 

「……」

 

「女の人のところしか行かんけなぁ!」

 

「そうかな? あまり(番組を)見たことないけど、男の人とも乾杯してるんじゃないの?」

 

「い~や、女の人ばっかりだ!」

 

「……たぶん、気のせいじゃないかと」

 

「女の人のところ行って、鼻の下伸ばしながら乾杯してなぁ!」

 

「……類さんの顔の作りの問題かと」

 

「目がトロンとなってなぁ!」

 

「……酒に酔ってるだけでは」

 

「好かん!」

 

「……」

 

「類さんのことはきらいだ!」

 

「百歩譲って、女の人とばかり乾杯しててもいいじゃない?」

 

「いやだ!」

 

このときの怒りかたはかなり激しいものだった。

 

 

僕がこの日記で隆夫さんの発言を色濃く書いてしまうため、誤解を招いている恐れがあるが、隆夫さんはけっして激情タイプの人ではない。

 

どちらかと言えば温厚な人だ。

 

嫌いな食べ物ならいざ知らず、人に対してこんなに露骨に嫌がるのは珍しい。

 

 

それ以来、我が家では『酒場放浪記』を見なくなった。

 

秀子さんの息子に託した夢(?)は途絶えた。

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

追伸

 

オンライントークショー『東京砂漠』

 

次回は5月19日(日)19時スタートです!

 

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