ども、昨夜は文学座の浅野雅博氏と飲み倒した岡田達也です。




昨日のつづき。


 *


我が父・隆夫さん(88)が

「デイサービスでやることがない」

「周りの人ともっとおしゃべりしたいのに、みんな静かだ」

「デイに来る人が少ない」

など、

とにかく“自分の退屈を埋める材料がない”ことに対して文句を言い続けるので、

クロスワードパズルの雑誌を購入した。

もちろん、文字の大きいやつ。


だが……

それでも見えないらしい。

もちろん裸眼では何も見えないのでメガネをかけてはいるものの、

それだけでは話にならず、常に天眼鏡を片手に頑張っている。

だけど、

やはり文字が読めないと気持ちが折れてしまうらしく、

すぐに雑誌をテーブルの上に放り投げてしまう。


うん

その気持ちはわかる

痛いほどわかる

いまだに裸眼で1,2の視力を誇る私だが、

それでも老眼の進行を食い止めることはできず、

お弁当のカロリーを確認するときも

書類に何かを書きこむときも

 

薬の成分表を読みたいときも

3秒くらいは凝視してみるのだけどまったく見えないので

「は~~~~~~~~~~~っっっっっ」

と、長めのため息をついて諦めてしまうのが常だ。


仕方がない

新しい天眼鏡を買ってあげよう

倍率が大きいやつを……


と、アマゾンで探していたら

倍率30倍、LEDライト付きなんていう、化け物みたいなヤツを見つけたのでそれを購入してみた。


 *


購入当日


「こ、こ、これは!」

「どう?」

「よ~、見えるなぁ!」

「そう?」

「これは見えるわ!」

「よかった、よかった」

「いままでのやつとは全然ちがうで!」

「でしょ?」

「明かりもつくで!」

「すごいでしょ?」

「これをデイに持って行くわ!」

「そうして!」


 *


2日目


「デイに持って行ったらなぁ!」

「?」

「職員さんが「ええの持っておられますね~」って言ってきてなぁ!」

 

「あ、そう」

 

「グフェフェフェフェ(笑)」

 

「……」


「隣の人も「それ、いくらするんですか?」って訊いてきてなぁ!」

「あぁ」

「欲しくなったんだろうやぁ!」

「そうかもね」

「きっとそうだで! グフェフェフェフェ(笑)」


殿様、プライドが満たされて満足しているようだ。

よかった、よかった

 


 *


すべてのお膳立てをしてもらい

 

周囲に羨ましがられて

 

ようやく前向きな気持ちになったらしく

 

隆夫さんはクロスワードパズルを解き始めた。

 

とても微笑ましいじゃないか

 

……と、

 

ホッとしたのも束の間

 

一昨日、帰宅した殿様はこう言った。

 

 

「今日も(デイサービスに)来とる人が少なくてなぁーー」

 

「うん」

 

「もう少し人が集まればええのになぁ」

 

「……」

 

「人がなぁ」

 

「……」

 

「少ないなぁ」

 

「……」

 

「もっと人がおったら賑わいがあってええだけどなぁ」

 

「あのさ、」

 

「なんだ?」

 

「デイサービスは宴会場じゃないんだから」

 

「……」

 

「賑わいを求める気持ちもわかるけど」

 

「……」

 

「そこは辛抱してよ」

 

「……」

 

「……」

 

「花見、行きたいなぁ」



 *

 

 

この殿様、どこまでも自分の欲望に正直に生きてるようだ。

 

とにかく今はクロスワードパズルに目を向けさせて飽きないことを祈ろう。

 

下々の者にできるのはそれくらいしかない。

 

 

 

 

 

では、また。