ども、岡田達也です。




昨日のつづき


 *


机の向こうから女性の声が聞こえた。

「11万円?」

加藤さんが虚勢を張って返事した。

「お、おう」

声が聞こえた。

「それ、社長がポケットマネーで払ってくださいね」

僕は、ここに来たことを後悔した。


加藤さんが僕に囁いた。

「大丈夫、大丈夫。あぁ言ってるけど、専務のOKはもらってるから」


ホントか?

本当なのか??

だとしたら、これまでのやり取りはいったい何だったんだ???

心臓、バクバクしたんですけど……

てか、

なんで社長が専務の顔色を伺ってるんだ????

この会社、なんなんだ???

 


加藤さんは、机の向こうに話しかけた。

「じゃ、決まりということで!」

机の向こうから専務の声が聞こえた。

「はいはい」

僕は返事した。

「あ、あ、ありがとうございます!」


と、

それまでとは音色が違う、優しい声が飛んできた。

「頑張ってね~」

僕はようやく安堵した。

 


 *

 


ウソのような話だが、

この日、僕は真柴さんの顔を見ていない。

それは”真柴さんが小さい”と言いたいのではなく、
(だったら書くなよ)

恐ろしくて、机の向こう側に挨拶に行くのが躊躇われたのだ。
(それも書くんじゃないよ)

こんな出会いだった。
(だから、どんな出会いなんだ???)


「会ってない出会い」

忘れられるわけがない。


 *


その後、

月日は流れ

僕は俳優として劇団に参加させてもらえることとなり、

真柴さんと同じく制作業務を兼任しながら俳優をやるという

「二足の草鞋」を履きながら芝居に携わった。


それはそれは

今思い返しても大変な日々だった。

だって、寝ても冷めても芝居作りの時間しかないのだ。

劇作としても、制作としても。


だけど、

大変だったけど、

いや、だからこそ、

劇団への愛着も深まったし、

あの日々がなければ、とっくに足を洗っていたかもしれないとも言える。


真柴さんと舞台上での共演は少ないけど

 

作家の真柴さんにはたくさん宛書きしてもらった。

たくさん飲みに連れていってもらい、

劇団の未来について何度も話し合い、

 

「あーでもないこーでもない」とくだを巻いた。


「頑張ってね~」と言われたあの日からは、


想像もできないほど長い付き合いになった。

 

20日は精一杯お祝いさせてもらおう。

 

 

オンライントークショー『東京砂漠』

 

 

 

真柴さんに叱ってもらいたい人

 

全員集合です!

 

 

 

 

では、また。