ども、ホタテは生でも炙っても大好きな岡田達也です。




我が父・隆夫さん(88)は、

8月末にコロナに感染し緊急入院した。

現在、介護医療院にて療養・リハビリ中。

三途の川を渡り損ねた父は

幸か不幸か、退院が見えてきた。


 *


昨日

 

我が家に介護用品の取り付けをしてもらい、

 

そのあと病院へ見舞いに行った。


と……

隆夫さんが入院しているフロアで、とあるイベントが行われていた。

スタッフさんが、鬼のお面が取り付けられた段ボール箱を持って、患者さんの目の前に行き、

患者さんはスタッフさんに渡されたカラーボールを、

「鬼は~外!」「福は~内!」など好きな掛け声をかけながら、

その箱の中めがけてボールを投げる、というもの。


そう、どこからどう見て「豆まき」だ。


昨日は2月29日

節分からずいぶん時間が経っている。


……なんで今ごろやってるんだろう?

そんな疑問も湧いたのは確かだけど、

 

まぁ、いいじゃないか

患者さんたち、みんな楽しそうに投げてーー

というか

上手に投げられないから箱の中にボールを置いてるし

なんだか可愛らしいぞ。


僕は遠巻きにその様子を微笑ましく見ていた。


と……

隆夫さんの番になった。


そこで繰り広げられた光景に、僕はおののき、戦慄が走った。


隆夫さんは、

渡されたボールを、

まるで親の仇を目前にした侍のように、

「お~に~は~そ~と~!」

「お~に~!」

 

「このやろ~!」

 

「そ~と~!」
 

「そ~ど~!」

「ど~ど~!」

「どっっっっせぇぇぇぇぇぃぃぃぃぃいいいいい!!!!!」

と、節分では聞いたことがない鬼気迫った掛け声ーー

というか、雄たけびを上げながら、

マリナーズの名サウスポー、ランディ・ジョンソン並みの剛速球をその左手から繰り出して、

段ボール箱の中に投げつけーー

というか、叩きつけた。

そう、叩きつけた。

イメージしにくい方は“神さまマイケル・ジョーダン”のダンクシュートを思い描いてもらえれば、ニュアンスは近いと思う。


こ、こ、これは!

節分の豆まきじゃない!

常軌を逸している!!

もしかして!

 

あんたは鬼殺隊なのか???



僕は震えた。


しかしーー

僕はこれっぽっちも笑えないというのに

スタッフさんたちは、その88歳のダンクな豆まきに爆笑しているではないか……


そう思っていると、スタッフさんが僕に気付いた。


そして、

隆夫さんに声をかけてくれた。

「あ、息子さんがいらっしゃいましたよ!」


振り返った隆夫さんの顔を見て、

僕は戦慄を通り越し、

その場で卒倒しそうになった。


こ、こ、

このオヤジ、

は、は、

鼻血を流しているじゃね~かっ!!!

 

 

隆夫さんは左の鼻の穴から、ツーっと一筋の血を流していた。

 

「岡田さん、鼻血、鼻血!」

 

気付いた看護師さんたちが、大慌てて血を拭い、ティッシュを隆夫さんの鼻に詰めた。

 

 

「ちょっと興奮してしまったみたいだな、グフェフェフェフェ(笑)」

 

 

 

 * 

 

 

どうやら隆夫さんは鬼殺隊のメンバーだということがわかった。

 

あんなに必死になって鬼を追い出そうとしたのだ。

 

それは間違いない。

 

ところで

 

いったい、何の柱なんだろう???

 

 

 

 

では、また。