ども、この時期になると朝のニュース番組が姿を消すことに納得がいかない岡田達也です。

 

 

 

 

我が父・隆夫さん(88)は

 

現在、介護療院にて入院療養リハビリ中。

 

 

 *

 

 

鳥取は日本海側に位置するので雪が降る。

(鳥取の場所、白地図で指せますか?)

 

冬はそこそこ寒い。

 

我が家はエアコンと、石油ストーブで暖を取っている。

 

石油ストーブは年代物で、数十年使用している。

 

たしかに暖かくなるけど、灯油代や部屋が温もるスピード感を考慮すると、圧倒的に石油ヒーターの方が良い。

 

だから、何年も前からヒーターに買い替えて灯油代を節約したいと考えていた。

 

 

だけどーー

 

隆夫さんの餅好きがそれを許さなかった。

 

 

隆夫さんは冬になると餅を食べる。

 

毎日、毎朝、これでもかと食べ続ける。

 

パンダが笹を食べるように。

(……そんなに可愛かったか?)

 

 

餅を焼くには石油ストーブが抜群にいい。

 

ストーブの上に網を乗せて、その上に餅を置いておけば、こんがり見事な餅が焼けるから。

 

料理のできない隆夫さんでも、これくらいは可能だ。

 

残念ながらヒーターでは餅は焼けない。

 

だから買い替えを踏みきれないでいた。

 

 

さておき。

 

餅好きの隆夫さん、焼くことはできても雑煮は作れないので、優秀な下々の者(私のことです)が調理することになる。

 

その際、毎年毎年、同じ会話が繰り広げられる。

 

元旦

 

台所に立った私は殿様(隆夫さん)に尋ねる。

 

 

「お餅はいくつ食べるの?」

 

「4つ」

 

 

餅の大きさにもよると思うけど、4つというのはそこそこの数だと思わないか?

 

食べ盛りの高校生じゃないんだぞ?

 

後期高齢者だぞ?

 

 

「あのさーー」

 

「なんだ?」

 

「4個は多くないか?」

 

「食べるで!」

 

「……」

 

「4つ、食べるで!」

 

「あのさーー」

 

「なんだ?」

 

「去年も元旦に「4つ食べる」って言って、次の日から「やっぱり3つでええ」って言ったんだよ」

 

「……」

 

「去年だけじゃなくて、毎年そう言ってるよ」

 

「……」

 

「4つは多いんじゃーー」

 

「4つでええ!」

 

「……」

 

「4つ食べるけなぁ!」

 

 

これが、判を押したように、毎年繰り返される会話だ。

 

嘘じゃない。

 

1ミリも盛ってない。

 

本当にこのままの会話が行われてきた。

 

「天丼は3回が一番面白い」と言われるが、

 

それまで雑煮を作っていた母・秀子さんが亡くなってから5年経つので、面白いをすっかり超えてしまった。

 

 

こうして元旦は4つの雑煮を作る。

 

そしてその翌日から「3つでええなぁ」「3つでええけなぁ」というセリフに代わる。

 

これも我が家の風物詩と言っていい。

 

 

 *

 

 

ダメ元で看護師さんに掛けあってみた。

 

「すみません。父は餅が大好きな人でして」

 

「あぁ」

 

看護師さんの表情が曇った。

 

それだけで答えは理解できた。

 

が、続けてみた。

 

「毎年毎年4つ、お餅を食べていたんです」

 

「4つもですか?」

 

看護師さんは驚いた。

 

「はい、欠かさず4つです。声帯も太い人なので、誤嚥の可能性も低いんじゃないかなぁ、なんて思うんです」

 

「えぇ」

 

「というか、仮に喉に詰まらせて窒息死したとしても本望かもしれません」

 

「(笑)。いえいえ、それはダメです」

 

「病気で苦しんで亡くなるより、餅を喉に詰まらせる方を選ぶ人かと」

 

「(笑)。そうはさせません」

 

「ダメですか?」

 

「申し訳ないですけど」

 

「小さく切ってもダメですか?」

 

「ごめんなさい」

 

「わかりました」

 

 

 *

 

 

今度のお正月は隆夫さんは餅を食べられない。

 

これまでの人生で欠かしたことがなかったお餅だ。

 

さぞ残念なことだろう。

 

代わりにといってはなんだが、あんこはOKが出たので、大好きなシャトレーゼのお菓子を持って行ってあげようと思う。

 

 

父上

 

今はガマンのときですぞ。

 

 

 

 

では、また。