ども、丸美屋の麻婆豆腐で身体を温めた岡田達也です。




我が父・隆夫さん(88)は

現在、介護療院にて入院療養中。


 *


昨日

父の元へ、面会&たまご煎餅の差し入れ&洗濯物の交換に行く予定だった。

事前にメールで伝えたところ

「15時からリハビリあり!」

との返信があった。


うんうん

そうね

そうですよね

がんばってるんですもんね?

「俺はここまでやってるんだぞ!」という頑張りをアピールしたいですよね?

わかりました

わかりましたよ

15時に伺いますよ……

ってことで、15時の5分前に到着した。


「シェーバーの蓋がないない!」と騒ぐので、ベッド脇に落ちていたフタを拾い、

 

「携帯の充電ができん!」と不満を述べるので、充電器のUSB差込口をしっかりと指し直し、

 

「ふりかけが終わった!」と吠えるので、ふりかけを詰め替えたりし、

 

ようやく洗濯物を交換していると、女性スタッフさんがやってきて、隆夫さんに声をかけた。

 

「お~か~だ~さ~ん!」

 

耳の遠い隆夫さんのために、耳元で、大きな声で。

 

若く、可愛らしい人だ。

おそらく20代中盤。

 

88歳にもなる爺さんの相手なんて面白くもないだろうに、ニコニコしながら話しかけてくれるなんて。

それだけでもありがたい。

 

 

それから僕にも挨拶してくれた。

「リハビリ担当のS田と申します!」


僕は挨拶を返した。

「はじめまして。息子です。いつも父がお世話になっております。本当にありがとうございーー」


ここで、隆夫さんが口を挟んだ。

「このS田さんにはお世話になっとるけなぁ! ちゃんとお礼を言ってよ!」


……クソじじぃ

だから今、言ってるところじゃね~かよ

ちょっと黙っててくれよ


隆夫「S田さんはなぁ、よう(良く)してくれるけなぁ!」

達也「本当にありがとうございます」

S田「とんでもないです。お父さまは明るくお元気なので、こちらも楽しいですよ」

達也「リップサービスでもうれしいです」

S田「そんな、そんな」

隆夫「今からなぁ、S田さんとリハビリに行くけな」


厳しいリハビリに耐える隆夫さん

その姿を見るのも悪くない

これまで甘えた人生を送ってきたのだ

多少過酷な時間を過ごしてもいいじゃないか?

どれどれ、額に汗するのを見てみるか……

そう思っていた。


達也「どこでリハビリするの?」

隆夫「食堂だが!」

達也「……食堂?」

隆夫「あぁ、食堂」

達也「食堂で何をするの?」

S田「五目並べです!」

達也「……ご、五目並べ???」

S田「はい。岡田さんが教えてくださるそうです」


なるほど

今日は頭のリハビリなのか

僕は勝手に歩く訓練のようなものを想像していたが


隆夫「授業料はサービスしておくけなぁ。グフェフェフェフェ(笑)」

達也「……」


ゲスなサービストークが冴えわたっているぞ

いよいよ復活しそうな雰囲気じゃないか

……天国のお母さん、お迎えはまだですか?


S田「じゃ行きましょうか。車椅子に乗れますか?」

隆夫「こうだったかいなぁ?」


そういうと隆夫さんは、ベッドからなんとか自力で車椅子に移動した。

 

S田「すごいですね、一人で乗れるようになりましたね!」

 

隆夫「やればできる男よ」

 

達也「……」

 

隆夫「これは帰宅も近いな!(笑)」

 

達也「……」

 


そして二人は食堂に向かった。

僕は黙って後を付いて行った。


隆夫「たまご煎餅を3枚」

達也「は?」

隆夫「持ってきただろ? たまご煎餅?」

達也「持ってきたけどーー」


僕はS田さんに、持ってきたたまご煎餅の袋を渡した。


S田「今、食べながらやりますか?」

隆夫「3枚なぁ!」

S田「じゃお皿に出しておきますね」

隆夫「ありがとう」


隆夫さんは煎餅を口に入れながら将棋盤を開いた。

ここには碁盤は無いようだ。



隆夫「これは将棋盤だけど、マス目があるだろ? これでもできるけなぁ。碁石を置いて、五目を先に並べた方が勝ち」

S田「わかりました」


S田さん……

五目並べを知らないのだろうか?

それとも、隆夫さんの話に合わせてくれてるのだろうか?

まぁ、僕がやれていないことをやってくれているのだ。

どちらにせよありがたい。

僕は心の中で感謝しながら、余計な一言を発してしまった。


達也「S田さん、相手が3目並べたら、必ずその頭を押さえてくださいね」

S田「ありがとうございます。次男さんもお強いんですか?」

達也「いや、僕はそんーー」

隆夫「(僕を指差し)これは弱いです!グフェフェフェフェ(笑)」

達也「……」

隆夫「将棋も囲碁も五目並べも弱いです!」

S田「そんな、そんな!」

隆夫「いや、本当のことです」

達也「……」

隆夫「頭を使うものはからっきしダメですな」

達也「……」

S田「いや、そんなことはーー」

隆夫「子供のころに教えましたけど、センスがありません(笑)」

達也「……」

S田「私の方がセンス無いと思います」

 

隆夫「私がしっかり指導しますからすぐに強くなりますよ」

 

達也「……」

 

隆夫「(僕に向かって)もう帰ってええで」

 

達也「あのさ、今週末も米子に行ってくるから、次は来週の平ーー」

 

隆夫「わかった、わかった!」

 

 

はやく五目並べに集中したかったらしい。

 

僕の言葉は遮られた。

 

煎餅をしゃぶりながら盤面を見つめる老人の楽しそうな背中を、僕は複雑な気持ちで見つめながらエレベーターのボタンを押した。

 

 

 * * *

 

 

 

先ほども書いたけどーー

 

リハビリを担当してくださる方には頭が下がる。

 

本来は僕がやらねばならないことを代行してくださっているのだ。

 

 

医療に従事されている方はもちろん、

 

介護職の方もがんばってください。

 

そして、これからもよろしくお願いします。

 

 

 

 

では、また。

 

 



追伸

 

次回の東京砂漠です!