ども、昨日買った牛タンの切り落とし(420円)が大当たりだった岡田達也です。




我が父・隆夫さん(88)は、現在入院療養中。

容体が安定してきたので、急性期病院から介護病院へ転院することになった。

それにまつわるお話。


というわけで昨日のつづき。


 * * *


入院に際し、必要なものはたくさんある。

着替え(パジャマ)が4着

下着が5枚

タオルが5枚

バスタオルも5枚

シャンプー、リンス、ボディソープ

洗濯物を入れるバケツ
(20リットル程度の大きさでフタ付き)

靴下、タオルケット、シェーバー、おしりふき、靴、スリッパ、

その他、なんちゃらかんちゃら……。

ほぼほぼ揃えていたものの、いくつか足りないものがあった。

僕は一度病院を出て、ホームセンターとドラッグストアをハシゴし、必要なものを購入し、それらをすべて一旦家に持ち帰った。

隆夫さんの名前を書くために。

「すべての所持品に名前を記載してください」との注意書きがあったので。


 *


僕が、幼稚園、小学校のころ

「持ち物には名前を書いておくように」という指定があった。

亡き母・秀子さんが書いてくれたものもたくさんある。

だけど、それに負けないほど隆夫さんが名前を書いてくれていた。

自分の文字にコンプレックスを抱いていた秀子さんが、達筆な隆夫さんに「たっちゃんの名前を書いて!」とお願いすることが多かったのだ。

普段は何の役にも立たない隆夫さんだったが、このときばかりは張り切って「岡田達也」の名前を、封筒、ランドセル、巾着袋、防災頭巾……、

 

その他いろんなもに書いてくれていた。

僕は、その見事な文字に、いつも見惚れていた。

本当に達筆なのだ。

 

しかも、左利きの人が右手で書いているというのに。


「お父さんの字はこんなにキレイなんだぞ!」

いつだって、とても誇らしかった。


“親が子の名前を書く”

それは当たり前の行為なのかもしれない。

でも、

今、こうして父の持ち物に「岡田隆夫」と名前を書いている自分がいる。

“子が親の名前を書く”

その行為は、子供のころ、想像もしていなかったことだ。

だけど、こうしてその時間を過ごしている。

洋服のタグに、

タオルのタグに、


タッパーの蓋にビニテを貼ってその上に、

品物に直接……


そんな自分に、少しだけ不思議な気持ちと、

「これが生きていくってことなんだな」という思いがよぎった。


隆夫さんがたくさんたくさん書いてくれた僕の名前。

どうやら、そのお返しをするときが来たらしい。

僕は、すべての持ち物に「岡田隆夫」の名前を書いた。

残念なことに、隆夫さんほどの達筆ではないけれど。


 *


すべての持ち物に名前を付け終え、病院に戻った。

隆夫さんが入院している5階に上がり、エレベーターを降りると、大音量の演歌が聞こえてきた。

「……なんだ? ここは場末のスナックか?」




つづく




追伸

本日11月19日は、母・秀子さんの命日です。

数えまちがいでなければ6年が経ちました。

「そろそろ秀子さんが隆夫さんを迎えに来るのか?」

「それとも、まだしばらくは生き延びさせるのか?」

聡明な母の判断に委ねて、僕は元気に暮らしていこうと思います。