ども、おでんに水餃子を入れたがる岡田達也です。




我が父・隆夫さん(88)は、現在入院療養中。

容体が安定してきたので、急性期病院から介護病院へ転院することになった。

というわけで昨日のつづき。


 * * *


看護スタッフのTさんに言われた。

「もうしばらくこちらでお待ちください」

「わかりました」


やれやれ


隆夫さんが帽子にこだわるのも自由だよな

だって、お洒落の気持ちは人それぞれだし

たしかに僕が目くじら立てるところじゃないか……


少しだけ反省した僕は、ソファに腰を下ろした。

周りを見回してみた。

あきらかに今までの病院とは違う空気感がある。

今までの病院は医療に特化しており、今回の病院は介護に特化しているからこその空気感の違い。

 

上手く説明できないけど何かが違う。

“どうかここの水が合いますように”

下々の者は、いつだって殿様のことを最優先に考えている。


そこへ、声がかかった。

「岡田さん、お待たせしました。こちらへどうぞ」

診察室に通された。

おそらく80歳近いであろう、しかしながら矍鑠(かくしゃく)とした、きれいな白髪の先生が座っていた。

 

他にも、

担当の看護師さん

介護士さん

栄養管理師さん

リハビリ担当の方

婦長さん
(呼び名が違うかも)

総勢6名の方に囲まれた。

この方たちが「チーム隆夫」らしい。


全員の自己紹介の後、診察してくださった先生が口を開いた。

「紹介状を読ませていただきました」

「はい」

「8月の末にコロナに感染して、○○病院に入院されたんですね?」

「そうです」

「文面によると、免疫力の低下により、一時はかなり危険な状態だったようですね?」

「はい。9月から10月の頭にかけてが一番弱っていたと思います。私も「もうダメかもしれない」と、覚悟を決めていました」

「う~ん、確かにそれくらい悪かったようですね。書面にも書いてあります」

「えぇ、まさか転院できるまで回復するとは思ってもいませんでした」

先生はレントゲン写真を見せながら説明してくれた。

「肺が片方ない、心臓は肥大してて普通の人の1,5倍はあります。前立腺肥大、高血圧、不整脈、肺に水も溜まっている。ちなみに喫煙歴は?」

「入院するまで吸い続けていました。つまり88まで」

「そうですか」

「もうやめるそうです」

「(笑)」

「何歳から吸い始めたかは、訊いたことがありません」

「まぁ、昭和の人ですからね」

「えぇ」

「ですがーー」

「はい」

「先ほど診察させていただいた感じからするとーー」

「はい」

「今、この病棟で一番元気なのが岡田さんです」

「……はっ?」

「まちがいなく一番元気ですよ(笑)」

「……えっ?」

「88歳で、あんなにしゃべれて、認知も痴呆もない。男性の方では珍しいです」

「はぁ」

「すごいですね、お父さま」

「いや、すごいっていうか、なんていうか……」

「なかなかいませんよ、あんな人」

「それはありがたいような、ありがたくないいようなーー」

「え?」

「いや、なんでもありません」

「今の状態ならば、きちんとリハビリしていけば、帰宅の可能性も出てくると思います」

「はぁ」

 

「もちろんデイサービスなどを利用してという条件ですが」


「そうですか、帰ってきてしまいますか……」

「……イヤなんですか?」

「とんでもないです! 私もそれを望んでます!」

「わかりました。今から、このスタッフたちと、今後の方針について話し合いたいのですが、お時間大丈夫ですか?」

「大丈夫です。よろしくお願いします」

「まず、食事に関して。栄養管理師の○○から」

担当の方が話し始めた。

「どんな些細なことでもかまいません。お父さまの食事の好みを教えてください。提供できるかどうかは別問題ですが」

「はい。では、遠慮なくお伝えしますとーー」

 

「どうぞ」

 

「病院食が嫌いです」

 

「(笑)」

 

「すみません、本当のことでして」

 

「かまいませんよ」

 

「お米が好きなんですが、お粥はダメですね。固めに炊いた白米が大好物なんです」

 

「はい」

 

「おかずは焦げたものが好きです」

 

「……焦げたもの?」

 

「例えば、鮭を焼くとします」

 

「はい」

 

「普通に焼いただけでは足りないらしいので、最後にバーナーで表面を炙って黒く仕上げます。炭化させる気持ちで炙ります。親の仇みたいな気持ちで炙ります。そうすると「美味しそうだなぁ」と言って喜びます」

 

「……」

 

「一事が万事で、焦げ目がない物は「生」と判断されます」

 

「……はぁ」

 

「煮物は全般的に嫌いです。そもそも焦げてませんから。魚も焦げた鮭とブリくらいしか食べません」

 

「お肉は?」

 

「肉は好きですね。ただし入院してからは肉への興味が薄れたようなことを言ってました」

 

「他には?」

 

「餃子、卵料理、フライ、天ぷらが大好きです。つまり『王将』を愛してます」

 

「(笑)」

 

「蕎麦は食べますが、うどんは嫌いです」

 

「なるほど」

 

「うどんは嫌いですが、そうめんは好きです」

 

「……え、なんで?」

 

「ラーメンは味噌一択です」

 

「(笑)」

 

ここで、先生が口を挟んだ。

 

「けっこう油っこい物がお好きなんですね?」

 

「はい。ま、かく言う僕も同じですけど」

 

「焦げと油を好む88歳ーー」

 

「……」 

 

「こりゃ、元気だわ!(笑)」

 

「……」

 

「まぁ、食事に関しては、今後の様子を見ながら決めていきましょう」

 

「よろしくお願いします」

 

「では、続いて介護士のほうからーー」

 

 

こうして全スタッフさんとのヒアリングが行われた。

 

僕は入院に必要なものを購入するために、一度病院を離れた。

 

 

 

 

つづく