ども、本日のプロ野球ドラフトで指名されるのを待っている岡田達也です。



昨日のつづき。


* * *


「じゃ今度来るときは、炙った明太子を食べやすいように切って持ってくるよ」

「うん、炙ってなぁ!」

「……」

「食べやすいように切ってなぁ!」

「……」

「炙ってなぁ!」

「じゃ、今度の水曜日(25日)に来るから」

「わかった」


この会話が行われたのは
22日の日曜日のこと。

だが……

 

24日火曜日
殿様から再びメールが入った。

それは
私が新たなアルバイト先で
汗水たらして働いて
ようやく昼休憩になり
腰をさすりながら
「さて、昼飯でも食うか」と
スマホのメールをチェックしたときだった。

「おはよう。今日遅くなってもいいからお願いします。明日から食べます。いちごのパンケーキ、明太子ざつぎり、するめのこうじ漬け、を食べたい。病棟にみんなが使える冷蔵庫があります。」

……
……

わかってます
わかってますよ

家来たるもの
殿様の注文であるならば
背と腹を代えてでも叶えなければならない。

しかも

この程度のリクエストなら

ワガママでもなんでもない。


しかし
病院の面会時間は14~16時
私の仕事が終わる時間は16時30分

仮に
私が仕事終わりに
加速装置を使ったとしてもムリだ。

仮に
私が透明人間になれるとしよう。

それにしたって
病院の中空を
「いちごのパンケーキ」や
(ヤマザキの『イチゴスペシャル』のことです)

明太子ざつぎりや
(おそらく炙った明太子のことです)

するめのこうじ漬けが
フワフワ浮かんで移動していたら
かなりの事件になると思われる。
できるならそれは避けたい。

それにだ
「明日から食べます」ってことは

24日ではなく
25日でも大丈夫ってことだよな?

「水曜日(25日)に行く」と伝えたはずだが……

殿は、なぜ24日にご所望されたのだろう?

……
……

わからん

とにかく
メールを送っておこう。

送っておかなければ
切腹を申し付けられる可能性もある。


「おはようございます!
長文のメールありがとうございます。
調子が良さそうですね。
今日は仕事なので、面会時間が終わる16時までに届けられません。
明日の14時くらいに持っていくので、もう少々お待ち下さい」


 *


そして昨日の14時。

すべての物を揃えて病室に向かった。

「明太子、アルミホイルに包んであるから。食事のときにーー」

「今くれ」

「えっ、今?」

「今、一切れ」

「ご飯ないけどいいの?」

「いい」

一切れ食べさせた。

「うん、うまいな」

「それは良かった」

「イチゴ、半分くれ」

「明太子の直後にイチゴスペシャル?」

「あぁ」

「お茶飲む? 口の中をキレイにした方がーー」

「お茶いらん。イチゴ、半分」

「はぁ」

僕は
イチゴスペシャルを手で半分に千切って
隆夫さんに渡した。

殿様ーー
いや、隆夫さんは
その半分の半分ほどを食べて言った。

「もう寝るわ」

「お、おう。ゆっくり休んでね」

「次来るとき、明太子追加で」

「……」


 *


私が高校生の頃
カルチャー・クラブの
『カーマは気まぐれ』が大ヒットした。

言っておくが
隆夫さんは気まぐれなのではない。

いつだって自分の欲望に素直なのだ。

そうやって生きてきた人なのだ。

この年齢で
長きにわたる入院生活でも
痴呆にも、認知症にもならず
食べたいものをメールで知らせてくる生命力

おそろーー
まちがえた
とてもすばらしい

次の差し入れは

本当に炙り明太子になるのか?

それとも

別の品になるのか?

 

メールを待ちたいと思う。

 

 

 

では、また。