ども、汚しの天才こと岡田達也です。

 

 

 

 

 

『呪縛の家』

 

昨日は大阪初日。

 

初日とはいえ、ツアー3ヶ所目。

 

もう気負いはない。

 

開演前、いつもの時間に淡々とメイクを始めた。

 

 

「おっさんがメイクしてるのかよ?」

 

「必要ないんじゃないのか?」

 

「イケメン枠じゃないんだから己を知れよ」

 

そう言いたくなる気持ちはわかる。

 

わかるけどな、

 

メイクはイケメンになるためにするのではなく

 

表情をよく見せるため、であり

 

照明に照らされたときに顔が見やすくするため、だったりするのだ。

 

 

とくに私のような色黒は

 

ドーラン(ファンデーション)を塗っておかないと

 

大変まずいことになる。

 

以前、キャラメルボックスの照明さんに

 

「達也の顔にどれだけ明かりを当てても、ぜんぜん見えないんだよ~!」

 

と、劇場中に響く声で嘆かれた経験を持つ男だ。

 

だからこそ

 

しっかりと、ていねいに、顔を塗りたくる必要がある。

 

 

メイクは衣裳を着る前に終わらせるのが基本だ。

 

なぜなら、衣裳を汚してはダメだから。

 

演劇の世界には

 

「衣裳さんにだけは迷惑をかけてはならない」

 

という暗黙の了解がある。

 

それほど衣裳さんの存在は大きい。

 

 

昨日はアディダスの白い短パンを履いていた。

 

メイクの途中でーー

 

フト視線を下げると

 

なんと、なんと、

 

その真っ白な短パンの右脚のところに

 

肌色のファンデーションが

 

べっとりと付着していた。

 

 

あっ!

 

ああっ!!

 

ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!

 

 

なんで?

 

なんで??

 

いつ付いたんだよ???

 

 

真っ白なのに!

 

お気に入りなのに!!

 

まるでうんちを指で撫でつけたみたいになってるぞ!

 

俺は小学生か?

 

ちがうぞ!

 

55歳だぞ!!
 

いい大人だぞ!!!

 

 

慌てて、メイク落としで叩いてみた。

 

ダメだ

 

白くなるどころか、うんちは広がるばかりだ。

 

(……表現がレベル小学生なんですけど)

 

 

衣裳さんのところに走り込んだ。

 

「す、す、すみません!」

 

「どうしました?」

 

「ウタマロ石鹼はありますか?」

 

「ありますけど」

 

「お借りしたいんですが」

 

「どうされたんですか?」

 

「私物の白いジャージにドーランを付けてしまいまして」

 

「あぁ」

 

「私、ジャージしか持ってないので、このままだとパンツで劇場を出ることになります。そうなると、ホテルまでの道のりでおまわりさんに捕まって、明日から公演中止になる可能性があります」

 

「(笑)」

 

「なんとしてもそれだけは避けたいのです」

 

「いいですよ。帰るまでに洗って乾かしておきますから、出してください」

 

「ええっ!」

 

 

亡くなった母・秀子さんの教育の根幹には

 

「他人様に迷惑をかけてはいけない」

 

というものがあった。

 

子供のころから事あるごとに言われて育った。

 

それに

 

さきほども書いたが

 

「衣装さんに迷惑をかけてならない」

 

という不文律もある。

 

 

「いやいや、そんな、お手を煩わせるようなことは……」

 

「大丈夫ですよ」

 

「でも……」

 

「公演中止になったら困りますから(笑)」

 

 

55歳のダメな大人の不始末を

 

若い女性スタッフのお2人が

 

快く引き受けてくれるという。

 

普段から可愛らしいお2人だが

 

神々しい女神に見えた。

 

 

「……甘えさせてもらっていいですか?」


「遠慮なく」

 

 

 *

 

 

今日は劇場に入る前に

 

お礼の品を買ってから行くことにしよう。

 

 

もしもこの先

 

公演が中止になった場合は

 

「あぁ、あの男、またまたジャージを汚して、パンツで帰宅して捕まったんだな……」

 

と思ってもらって間違いない。

 

 

今日は慎重にメイクをしようと思う。

 

 

 

 

 

では、また。