ども、コットンのTシャツが着れなくなってきた岡田達也です。

 

 

 

 

 

スマホはいつも前ポケットの左側に入れている。

 

背面カバーは付けているけど

 

表面には蓋が無いタイプなので

 

予期せず画面に触れてしまうことがある。

 

 

昨日がそうだった。

 

 

イオンで買い物中、電話が鳴った。

 

ポケットからスマホを取り出した。

 

「着信 澤多鶴子」

 

叔母からの電話だった。

 

 

 *

 

 

多鶴子さん(83)は

 

私の父・隆夫さん(88)の妹で

 

その体内の成分は「愛と毒」で作られている。

 

 

 *

 

 

電話に出た。

 

 

「もしもし」

 

「ハロー、ハロー」

 

「……あんたはアメリカ人か?」

 

 

多鶴子さんとの会話はこれで始まるのが決まり
 

 

「え? なんて?」

 

「あんたはアメリカ人か???」

 

「なんだか後ろがうるさくてよく聞こえんな!」

 

「あぁ、ごめんごめん。今、イオンで買い物してて」

 

「あぁ、そうか」

 

「どうかした?」

 

「いやいやいや! あんたからの着信があったけなぁ! 何事かと思ってかけ直しただが!」

 

「えっ? 着信?」

 

「いよいよか?」

 

「は?」

 

「いよいよお兄ちゃんがーー」

 

「生きてるよ!」

 

「そう、残念ね」

 

「言い方!」

 

「吉報かと思ったのに」

 

「(笑)」

 

「元気なんか?」

 

「うん。この間、食欲がない日があったけど、もう平気みたい」

 

「そう、ますます残念ね」

 

「……」

 

「達也は元気なの?」

 

「うん、おかげさまで」

 

「それは良かった。ちょっと様子が気になってたから、どのみち電話しようと思ってたのよ」

 

「うん」

 

「で、あんたから思わぬ着信があったから」

 

「ごめん。たぶん無意識で触っちゃったんだ」

 

「ならええけど」

 

「そっちは元気?」

 

「おかげさまで」

 

「それは良かった」

 

「大谷くんも活躍しとるしな」

 

 

多鶴子さんは大谷翔平選手の大ファンだ。

 

いつの日か、一緒にアメリカに行って、試合を観る約束をしている。

 

 

「あぁ、すごいね!」

 

「今日もホームラン打ったで!」

 

「え? 30号?」

 

「そう!」

 

「知らなかった!」

 

「ま、あんたの愛情はそんなもんだ」

 

「……情報を獲得する早さは、愛情の量の問題なのか?」

 

「そうとも言えるわね」

 

「……」

 

「でもなーー」

 

「なに?」

 

「「なおエ」(※)なんだよねぇ」

 

 

(※ 「なおエ」とは、ニュースなどで大谷選手の活躍を伝えたあと、「なおエンジェルスは敗れました」と使われるコメントの略」)

 

 

「よく知ってるね、そんな言葉」

 

「知っとるわよ~!」

 

「(笑)」

 

「大谷くんが打っても、他の人がもっと頑張らんと!」

 

「いや、そうは言うけど、みんな頑張ってるんだよ。その結果なんだからしょうがないよ。それが勝負の世界なの」

 

「あんたは甘い!」

 

「……」

 

「試合は勝たないと!」

 

「……」

 

「勝てば官軍負ければ賊軍!」

 

「……メジャーリーガーはその言葉知らないだろうな」

 

「勝って兜の緒を締めよ!」

 

「……使い方、間違ってるし」

 

「エンゼルスが優勝すれば(チームに)残るかもだけど、このままだとFAで出ていっちゃうわよ!」

 

「まぁ、そうかもねぇ」

 

「彼のギャラは跳ね上がるわよ」

 

「そうだろうねぇ」

 

「達也!」

 

「なに?」

 

「わかってるわよね?」

 

「なにが?」

 

「私をアメリカに連れて行くんでしょ?」

 

「あぁ、そうね」

 

「旅行代金はあなたが出すんだからね」

 

「……聞いてね~よ」

 

「じゃ、お兄ちゃんに何かあったらすぐに電話して」

 

「たぶん、何もないな」

 

「毎日、「はやく天に召されますように」ってお祈りしておくから」

 

「……」

 

 

 *

 

 

この人と話すと元気なれる。

 

隆夫さんも、多鶴子さんも

 

タイプは違うが

 

世の中に笑いを届ける才能がある兄妹だと思うので

 

もう少し長生きしていただきたい。

 

 

 

 

 

では、また。