ども、クーポン券を大事にしまい過ぎて期限切れにしてしまう岡田達也です。

 

 

 

 

 

昨日のつづき。

 

 

 *

 

 

自分の記憶なんて、これっぽっちも信用していない。

 

だから

 

僕がセリフに詰まってから

 

いったいどれほどの時間が経過したのか?

 

確信をもって言えない。

 

 

ただし、

 

そのときの気持ちだけは明確に覚えている。

 

 

「早くしゃべらなければ」という焦り

 

「でも、口を開けば泣いてしまう」というもどかしさ

 

「みんなを待たせてるよ!」

 

「あぁ、一体どうすりゃいいんだ?」という苦しさ

 

そんなものが綯い交ぜになって

 

ひたすら辛い時間だった。

 

 

 *

 

 

自分が突然しゃべれなくなったのには

 

もちろん理由がある。

 

寛治さん(久松信美さん)

 

由紀子さん(坂口理恵先輩)

 

に、お礼を述べるセリフが書かれていたからだ。

 

 

もちろん

 

脚本上の言葉だったことは承知している。

 

だけど

 

それまでの稽古時間で

 

台本がある部分しか稽古してこなかったから

 

僕は、繰り返し繰り返し

 

久松さんと、坂口さんとのシーンをやっていて

 

(もちろん他のシーンもやってましたよ)

 

 

「ま、こんな感じで本番までに仕上げていこう」みたいな空気感とはかけ離れた

 

「今はまだ稽古ですが、本気でやってますけど、何か?」という

 

“ぶつかり稽古”をやらされたのだ。

 

 

それは

 

手取り足取りじゃない

 

しごきじゃない

 

特訓でもない

 

安っぽいアドバイスもない

 

かといって突き放しているわけでもない

 

「面白い芝居を作るための、当たり前でいて、にもかかわらず多くの俳優ができない作業」

 

を見せつけられる時間だった。

 

 

断っておくが「面白い」という言葉には幅がある。

 

ここで言う「面白い」は

 

笑いを取るためのギャグや仕掛けのことではなく

 

“舞台上で、俳優が本気で心を動かして他者と交われば、受け取った俳優の気持ちが動く”

 

“そして返ってきた相手役のセリフを受け取って、再び心を動かす。けっして自家発電ではなく”

 

という

 

俳優がやらなければならない基本中の基本作業の話。

 

 

「俳優さんならそんなことわかってるでしょ?」

 

と思われるかもしれないけど

 

意外とできていなかったり、勘違いしていたりする役者は多い。

 

残念なくらい。

 

 

そんな大事なことを

 

この頼りにならない後輩が相手でも

 

ずっと繰り出してくる二人。

 

二人が、僕を相手にどう思って稽古していたのかはわからないけど

 

自分の不甲斐なさを思い知らされた時間は

 

あまりにも優しくて、

 

というか、優しすぎて、

 

僕には痛かった。

 

 

だから、予期せぬところで涙が出た。

 

 

 *

 

 

救われたのは

 

成井さんをはじめ、周囲のみんなは、ただただ黙って僕が発語するのを待っていてくれたこと。

 

「早くしゃべれよ!」と、怒られたって不思議じゃないのに

 

誰一人、急かすことなく、待っていてくれた。

 

(ついでに言えばその時間もプレッシャーになったんだけど)

 

 

何秒か、何十秒か、何分か?

 

気持ちはまだ揺れたままだったけど

 

なんとか歯を食いしばり

 

ようやくその先のセリフをしゃべり始めた。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

追伸

 

昨日の写真は当時販売していた台本です。