ども、昔はこたつで麻雀していた岡田達也です。

 

 

 

 

 

昨日のつづき。

 

 

 *

 

 

ある日

 

終演後の飲み会で

 

僕は勇気を出して言った。

 

「加藤さん、実は僕、『麻雀放浪記』の大ファンなんです!」

 

 

おそらく

 

麻雀好きの何百、何千という人から同じことを言われているのだろう。

 

カトケンさんはいつもの柔らかい表情で

 

「へぇ、そうなんだ。それはどうもありがとう」

 

と言ってニコニコしていた。


 

それから何をどう話したのか覚えていないが

 

とにかく僕は『麻雀放浪記』愛を語ったことは間違いない。

 

カトケンさんはイヤな顔一つせず、ずっと耳を傾けてくれていた。

 

 

そしてーー

 

僕がある程度話した後、カトケンさんが口を開いた。

 

「実はねーー」

 

「はい」

 

「僕、あのキャスティングされたときは麻雀を打ったことなかったんだ」

 

「えええええぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!!」

 

「あの映画のために麻雀を覚えたんだよ(笑)」

 

「ぜ、ぜ、女衒の達(カトケンさんの役名。ぜげんのたつ)は、麻雀が打てなかったんですか?????」

 

「そう」

 

「えええぇぇぇ」

 

 

これは衝撃的だった。

 

“麻雀を打ったことがないのにキャスティングされるなんて……

 

 

でも、まぁ、今ならわかる。

 

僕は侍でもないのに刀を振るし

 

やったことのない手話を丸暗記して舞台上で披露するし

 

この知能で大学教授に変身するしーー

 

 

つまり

 

俳優は、言われたら、何者にでもなる。

 

それが仕事というか、俳優の特権なのだ。

 

 

「で、映画のおかげで麻雀覚えたから、その後、芝居で地方に行ったときとかにスタッフさんたちと雀荘に行くようになってーー」

 

「はい」

 

「そしたら、そこの客がみんな気付くんだよ。「あ、女衒の達が打ちに来てる!」って」

 

「そうりゃそうなるでしょうね!」

 

「で、僕の後ろにみんな見に来るの。「女衒の達はどんな麻雀を打つんだろう?」って。必ず人だかりができてた(笑)」

 

「僕もその場にいたら絶対に見ます!」

 

「ところが、2~3順ほど僕の捨て牌を見たら、みんな僕の後ろから離れていくの。「な~んだ」って」

 

「(爆笑)」

 

「映画の影響力ってすごいね」

 

「僕も観ただけで麻雀が上手くなった気がしてましたもん!」

 

「大丈夫、それは錯覚」

 

「(笑)」

 

「そんなこともあって麻雀はほとんど打ってない」

 

「そうなんですね」

 

 

それから数日後。

 

カトケンさんに呼ばれた。

 

「岡田くん、これ、プレゼント」

 

 

 

「こ、こ、これはっ!!!!!!!」

 

「映画スタジオで「加藤さん、空き時間、ずっとこれを握って練習しててください」って渡された麻雀牌」

 

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!」

 

「(笑)」

 

「こ、こ、こんなもの、恐れ多くていただけません!!!」

 

「いいから、貰って」

 

「いや、でもーー」

 

「僕が持ってても価値がないから」

 

「は、は、ははぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」

 

 

僕は平伏しながらありがたく頂戴した。

 

もちろん今でも大切に持っている。

 

一度も使ったことはないが。

 

 

この牌を、

 

僕に麻雀を教えてくれた森くんに見せたら、

 

どれほど驚くだろう?

 

あのときのアホな高校生の仲間たちで

 

この牌で打ったら楽しいだろうなぁ

 

そんなことを思って顔がニヤけた。

 

 

 

 

 

つづく