ども、マスクを外したいけど人目が気になる小心者の岡田達也です。
先月末
伯母の吉恵さんが亡くなって
彼女の家を整理していたときのこと。
吉恵さんの面倒を見ていた妹の多鶴子さん（82）が言った。
「たつやっ！」
「何？」
「この家にあるもので、欲しいものは全部持って帰ってちょうだい！」
吉恵さんには子供がいないので
彼女の家は、多鶴子さんのさらに下の妹夫婦が引き取ることになっている。
とは言え、妹夫婦にはすでに住んでいる家があるので、
今後どうなるかわからないがしばらくの間は無人になる。
なるだけ整理したいということだ。
「う～ん、別に欲しいものはないな」
「反物は？」
「……それをもらってどうする？」
「留袖は？」
「それこそいらない」
「訪問着は？」
「……俺に呉服屋やれってこと？」
「そうじゃないけど」
「遠慮するわ」
「じゃ、着物じゃなくて、仏壇は？」
「気持ちだけもらっておく」
「そうか」
「うん」
「テレビは？」
「間に合ってる」
「そうか」
「うん」
「壺は？」
「……死んでも要らない」
「そうか」
「うん」
「あんた、料理するじゃない？」
「うん」
「台所のもの、何でも持って行って！」
「あぁ、それなら欲しいものがあるかも」
「サランラップは？」
「ありがたい！」
「持って行って！」
「わかった」
ラップをあさっていると、ハヤシライスのルーが二箱出てきた。
「何？ ハヤシライスが好きなの？」
「違うわよ～！」
「？」
「お姉ちゃん（吉恵さん）が「カレーが食べたい」って言って、スーパーに買いに行ったんだけど、間違ってハヤシライスを買っちゃったのよ！」
「あぁ」
「しかも二箱！」
「あぁ」
「婆さん二人でハヤシライス二箱も要らないじゃない？」
「たしかに」
「だけど、お姉ちゃんはたっぷり買いたがる人だから」
「なるほどね」
「ハヤシライス、持って帰って！」
「う～ん、頂いてもいいんだけどーー」
「何？」
「以前、ハヤシライスを作ったときに、隆夫さん（我が父）から「カレーの方が好きだなぁ」って言われたことがあって」
「何を贅沢な！」
「（笑）」
「「これはカレーだ！」って言って食べさせなさい！」
「いやいや、さすがにわかるでしょ？」
「テキトーにスパイスをぶち込んでカレーっぽくすれば大丈夫！」
「（笑）」
「それから、例の薬を入れて！」
「なんだよ、例の薬って！（笑）」
「あ、まだ完成してなかったわ」
「（笑）」
「とにかく持って帰ってね！」
「う～ん」
「これは形見分けよ」
「……ハヤシライスが？」
「そう」
＊
渋々持ち帰り、牛バラ肉と、玉ねぎをたっぷり入れて作ってみた。
隆夫さんの反応を心配していたがーー
「美味しいなぁ、これ！」
思わぬ反応が返ってきた。
「そう？」
「これは美味しいわ！」
「良かった」
「パチンコ屋の食堂もこんなの出せばええのに！」
「カレーの方が売れるだろうから、ハヤシライスは置かないよ」
「そうか」
「あのさーー」
「なんだ？」
「二箱貰ったから、がんばって食べてほしいんだけど」
「ええで、ええで！ 喜んで食べるで！」
隆夫さんの味覚が変わったのか？
それとも
僕の腕が上がったのか？
それとも
すこし贅沢な和牛を使ったのが良かったのか？
原因はわからないけど
以前は「カレーの方が好きだなぁ」
と言った隆夫さんがハヤシライスを喜んで食べてくれたので
ホッと胸を撫で下ろしている。
あれからすでに4日（回）、ハヤシライスを食した。
我ながら美味しく作れた。
こうして吉恵おばちゃんの形見は
僕と父の体に確実に刻まれている。
残り一箱。
大事にいただこうと思う。
……ところで
ハヤシライスのルーが形見って人、自分の他にいるんだろうか？
では、また。
追伸
ハヤシライスに納豆をトッピングすると美味しいって聞いたことがあるのですが、本当でしょうか？
どちらも好きだけどなかなか試す勇気がなくて。
もしも強く推される方いらっしゃれば、ご意見ください。