ども、他人には期待してばかりの岡田達也です。

 

 

 

 

 

夕方

 

我が家のチャイムが鳴った。

 

「は~い」

 

在宅を示すために少し大きな返事をしながら玄関に向かった。

 

 

「アマゾンで何か買ったっけ?」

 

心当たりはないけどなぁ

 

そう思っていると……

 

「隣の斎藤です」

 

我が家のお隣に住む斎藤さんの奥様の声がした。

 

 

急いで玄関の扉を開けた。

 

奥さんが満面の笑みで立っていた。

 

 

「お兄ちゃん!(私のことです)」

 

「なんでしょう?」

 

「今年はもう雪が降らんとええなぁ(笑)」

 

「そうですね。さすがにもう大丈夫じゃないですか?」

 

「春が近いもんな」

 

「そうですよ。万が一降ったとしてもわずかだと思いますけど」

 

「今年もいっぱい雪かきしてもらってありがとうな!」

 

「いえいえ」

 

「どれだけ助かったか!」

 

 

我が家と斎藤さんのお宅は通りからやや奥まった場所に位置している。

 

この2軒だけが専有する20m弱の道を何とかしないと大変なことになってしまう。

 

 

「良かったです」

 

「うちのお父さん(ご主人)、大きい病気してからは雪かきもできなくなって」

 

 

斎藤さんのご主人は

 

10年ほど前に脳梗塞を患って

 

ずっとリハビリに励んでおられる。

 

 

「当たり前です。ご無理なさらないでください。僕がやれるときはやりますから。もちろん、やれないときはやりません(笑)」

 

「(笑)」

 

「だから気にしないでください」

 

「ありがとうね」

 

「それに去年に比べれば楽でしたよ」

 

 

それは本音だ。

 

去年の雪はタイミングが悪かった。

 

決まって雪かきした次の日にドカ雪だった。

 

最悪と言っていい。

 

 

「これーー」

 

そう言って

 

斎藤さんは後ろ手に隠し持っていた

 

アサヒスーパードライ6缶パックと

 

さきいかと

 

小さなバームクーヘン3個を出してきた。

 

 

「雪かきのお礼」

 

「ええっ! こんなに?」

 

「いいの、いいの!」

 

「逆に気を遣わせてしまって申し訳ないです」

 

「いいから、いいから!」

 

「じゃ、遠慮せずにいただきますね」

 

「どうぞ、どうぞ!」

 

 

 *

 

 

実は

 

昨年も斎藤さんから雪かきのお礼として

 

スーパードライの6缶パックを頂いた。

 

今年はそこに、さきいかと、バームクーヘンが加わっている。

 

 

……なんか

 

……増えたぞ

 

 

どうか信じてほしい

 

僕は必要だから雪かきをしているだけであって

 

斎藤さんのお礼を目当てにやっているのではない


 

しかしーー

 

フト想像してしまった

 

 

もしも

 

もしも来年

 

斎藤さんが再びお礼を持ってきてくださって

 

それが

 

スーパードライ6缶パックと

 

さきいかではなく、天狗のビーフジャーキーになっていて

 

バームクーヘンが、ミスタードーナツの詰め合わせ10個とかになっているなら

 

5年後、10年後に期待せざるを得ない。

 

 

ひょっとするとその頃には

 

さきいかが、松葉ガニになっている可能性も0じゃないし

 

バームクーヘンが、ゴディバのガトーショコラのホールとかになっているかもしれない。

 

 

……

 

……

 

 

どうか信じてほしい

 

僕は必要だから雪かきをしているだけであって

 

斎藤さんのお礼を目当てにやっているのではない

 

 

どうか

 

どうか

 

どうかしんじてほしい

 

しんじて

 

しんじ

 

しん

 

しん

 

 

 

 

 

 

 

では、また。