ども、最近のパチンコ台のリーチ時間の長さに嫌気がさしいている岡田達也です。

 

 

 

 

 

昨日のつづき。

 

 

 *

 

 

父・隆夫さん(87)が言った。

 

「これなぁ、今日中に換金せないけんか?」

 

 

僕が缶ビールを一口飲んだ後に、だ。

 

 

「うん」

 

「明日じゃダメか?」

 

「ダメだね」

 

「そうか」

 

「……」

 

「いくら入ってるの?」

 

「わからん」

 

「……」

 

「ま、大して入ってないだろうしなぁ」

 

「……」

 

「今日じゃないとダメか?」

 

「だからダメだって」

 

「ま、今から行ってきてもええだけどなぁ」

 

 

もしもし?

 

もしもし??

 

こちらから見るに

 

大好きな玉子丼を食べながら焼酎のお湯割りをお飲みになってますが……

 

それでも今から行く気があるのですか?

 

その言葉、本当ですか?

 

 

「……」

 

「ま、ええか」

 

「……」

 

「行かんでも」

 

 

どうしてそうなる?

 

 

「……今から行ってくるよ」

 

「そうか!」

 

 

なんだよ、その食い付きの早さは?

 

 

「うん」

 

「行ってくれるか?!」

 

「うん」

 

 

きっちり期待してるじゃね~か

 

 

「いくら入っとるかわからんけどなぁ!」

 

「……」

 

「なんぼか入っとったらあげるわ、全部」

 

 

200円とかだったらどうすんだよ?

 

これは子供のおつかいか?

 

お駄賃か?

 

 

「ありがとう」

 

「ま、気をつけてな」

 

「歩きだから時間がかかるかも」

 

「歩きかっ?!」

 

 

あたりめ~だよ

 

こっちは缶ビール飲んじまったんだよ

 

見てただろうが?

 

 

「もう飲んだからね」

 

「そうか」

 

「うん」

 

「気をつけてなぁ」

 

 

 *

 

 

僕は、やるせない気持ちを抱えながら、駅前に向かった。

 

幸い、我が家からパチンコ屋まで歩いて15分ほどの距離だ。

 

けっして遠くはない。

 

 

換金してみた。

 

7,600円あった。

 

 

……う~ん

 

……微妙な金額だな

 

 

たしか「全部あげる」って言ってたよな?

 

お言葉に甘えてもらっちまうか?

 

でもなぁ

 

それはあまりにも大人げないよなぁ

 

 

いやいや

 

酒を飲んだ後に、この寒空に放りされたんだし

 

小遣いくらいはもらっておこう

 

 

 *

 

 

帰宅してーー

 

赤ら顔の隆夫さんが迎えてくれた。

 

さすがに悪いと思ったのか

 

「おかえり」

 

と声をかけてくれた。

 

 

そして訊かれた。

 

「いくらあった?」

 

 

正しくは7,600円と答えなければいけないところだ。

 

だけど、

 

僕は、こう言ってみた。

 

「5,000円以上あったよ」

 

 

これはウソじゃない。

 

そう自分に言い聞かせながら。

 

 

「そうか!」

 

「……」

 

「そんなにあったか!?」

 

「うん」

 

 

なんだか喜んでいたので

 

僕は5,000円札をテーブルの上に置いた。

 

そして

 

そのお札から数センチ離したところに2,600円を置いてみた。

 

 

隆夫さんはその2,600円に目もくれず

 

「そうか、5,000円もあったか!?」

 

とニヤニヤしながら喜んでいる。

 

 

「と、少しね」

 

僕は付け加えた。

 

 

「そうか! 5,000円か!」

 

僕の言葉は届いてないいらしい。

 

 

「……と、ちょっとね」

 

「じゃ、半分あげるわ」

 

 

……半分?

 

全部じゃないのかよ?

 

隆夫さんは5,000円札を財布に入れ

 

中から2,500円を取り出し、僕の目の前に出してきた。

 

 

「これ、取っといて。グフェフェフェフェ(笑)」

 

「……ありがとう」

 

 

あわせて5,100円が僕の手元に残った。

 

 

 *

 

 

神さま

 

すみませんでした

 

 

わかってますよ

 

僕がやったことは

 

「あなたが落としたのは金の斧か、銀の斧か?」

 

その問いに対して

 

超グレーゾーンの

 

「金色っぽい銀の斧」って答えてるようなもんですもんね?

 

わかってます

 

わかってますよ

 

だけど

 

父親から巻き上げた2,600円

 

これはアルバイト代になりませんか?

 

ダメですか?

 

そうですか……

 

 

 *

 

 

平穏無事に暮らしたい

 

ただそれだけを願っているのに

 

事件は次から次にやってくる。

 

 

次に

 

「おとうさん、あほぅだけなぁ」

 

この呪文が聞こえたら

 

僕はどこに行けばいいのだろう?

 

 

岡田隆夫には岡田達也がいるが

 

岡田達也には岡田達也がいない。

 

この違いは大きい。

 

 

 

 

 

では、また。