ども、温泉効果は数秒で消えてしまった岡田達也です。

 

 

 

 

 

私の記憶が確かならば

 

昨日の日記の書き出しはこうだった。

 

 

「神戸でのワークショップを終えた帰り道、

 

少しだけ回り道して城崎温泉にやってきた。

 

 

U18と、神戸ワークショップという、演劇の疲れや

 

父・隆夫さん(87)との日々の戦いの疲れや

 

さらには

 

あれやこれやの心の疲れを癒やすため。」

 

 

 *

 

 

城崎温泉は最高だった。

 

鳥取と城崎はご近所さんなので、何度か足を運んだことがある。

 

 

この地は

 

志賀直哉さんが愛した土地で知られており

 

最近では

 

湊かなえさんが『城崎へ帰る』という短編小説を発表したり

 

万城目学さんが『城崎裁判』という小説を書き下ろしたり、と

 

温泉だけでなく「文学のまち」としても有名だったりする。

 

 

さらには

 

青年団の平田オリザさんが

 

城崎国際アートセンターの芸術監督に就任してからは、演劇の街にもなった。

 

 

僕は、

 

城崎温泉という、

 

お湯も演劇も豊かな街で、

 

ありとあらゆるものを洗い流し、

 

リフレッシュして帰宅した。

 

 

 *

 

 

帰宅早々のことだった。

 

父・隆夫さんが口を開いた。

 

「お父さん、阿呆だけなぁーー」

 

 

……でた

 

久しぶりにきたよ

 

「お父さん、阿呆だけなぁ」が。

 

 

自分のことを1ミリもアホだと思っていない人間が

 

こうやって遜るのは保身以外のなにものでもない。

 

ってことは、なんかやらかしたに違いない

 

帰ってきて早々トラブル発生じゃね~か

 

 

「なに?」

 

「お父さんなぁーー」

 

「うん」

 

「昨日なぁ、この格好(Tシャツ)で、近所の郵便局と、コンビニに行っただがーー」

 

 

悲しい

 

悲しすぎる

 

なぜなら

 

この時点で僕はすべてが理解できてしまったから。

 

 

「で?」

 

「この格好だけなぁーー」

 

「だから、なに?」

 

「携帯電話をなぁーー」

 

「うん」

 

「手に持って行っただで」

 

「……」

 

「だって、ポケットもないけなぁ」

 

「……」

 

「手に持つしかないが」

 

「……」

 

「ところがなぁ」

 

「……」

 

「家に帰ってきたら、携帯が無いだが」

 

「……」

 

 

やっぱり

 

思った通りだ

 

僕はノストラダムスよりも未来を読むことができる

 

 

「郵便局と、コンビニしか行ってないけなぁ」

 

「……」

 

「どっちかにあると思うだけどなぁ」

 

「……」

 

「不思議なことがあるもんだなぁ」

 

「!!!」

 

 

僕の形相が変化したのがわかったのだろう。

 

“鬼の形相”という言葉があるが

 

僕のソレは、鬼を越えていたはずだ。

 

 

隆夫さんは

 

その場の空気を和らげるように

 

笑顔を交えながら言った。

 

 

「まぁ、どっちかにはあるわいな(笑)」

 

「……」

 

 

危なかった。

 

もしも僕が次元大介だったら

 

『S&W M19 コンバット・マグナム』が火を噴いていたと思うし

 

(小林清志さんのご冥福をお祈りいたします)

 

もしも僕が石川五右衛門だったら

 

斬鉄剣で切り刻んだ後

 

「またつまらぬものを斬ってしまった」

 

と呟いていたに違いない。

 

 

幸い

 

僕は次元でも五右衛門でもなかったから

 

銭形のとっつあんに逮捕されなかったけど

 

もしも自分が次元か五右衛門だったら

 

我が家はとんでもないことになっていた。

 

 

「で、探しには行ったの?」

 

「いや、今日は暑かったけなぁ~」

 

「……」

 

「こんな日に外に出たら死ぬで」

 

「……」

 

「まぁ、郵便局とコンビニしか行ってないけなぁ」

 

「……」

 

「どっちかにはあるわいな(笑)」

 

「……」

 

「あ、コンビニの外でタバコ1本吸ったけなぁ。お店の外かもしれん」

 

「……」

 

 

 

 

 

つづく