ども、吉野家に鰻を予約した岡田達也です。
昨日のつづき
*
一軒目
チャイムを押した。
返事があった。
僕は用意していたセリフをしゃべった。
「今年から福祉委員を担当することになりました、1班の岡田と申します」
(我が町内会は10班編成になっている)
「あぁ、お待ちください」
70過ぎの男性が玄関を開けてくれた。
同じ町内とはいえ初めて見るお顔だ。
印象で申し訳ないが、ちょっと気難しそうに見える。
「社会福祉協議会の賛助の件で伺いました。入江さん(仮名)は、毎年、賛助されてるそうですね」
「うん」
「今年はどうされますか?」
「う~ん、一口2千円だっけ?」
「そうです」
「もう少し、安くならないの?」
えっ?
いきなりの値下げ交渉???
「……いや、私には、そこを変える力はなくて」
「こんなご時世なんだし。もう少し安い金額にした方が、いっぱい集まると思うんだけどね」
「おっしゃる通りだと思います」
「上の人にそう伝えておいて」
「必ず」
やっぱり寄付を募るってのは難しいもんだなぁ……
「では、今年は無しということでーー」
と、ここで入江さんから質問された。
「あなた、1班って言ったよね?」
「はい」
「家はどの辺りなの?」
「○○団地の横の奥まった所です」
「あぁ、あそこか。あまり見かけない顔だなと思って」
「はい。実は4年前に母が他界して、こっちに戻ってきました」
「そうなんだ」
「はい。それまでずっと東京暮らしだったんですが、父も高齢なので放っておくわけにもいかなくてーー」
「えらいっ!」
「?」
「あんた、えらいなぁ!」
「いや、そうなんですかねぇ」
「この町内、若い者がどんどん減っとるけなぁ!」
「そうですか」
「うちのバカ息子どもだって、長男が東京に家建てて、次男は愛知にマンションを買って! 帰ってくるつもりなんかあらせんがなっ!」
「いや、それはわかりませんよ。ご両親に何かあったらーー」
「だとしたら向こうに家を建てたりせんだろ?」
「それは、まぁ、そうですね」
「隣の○○さんも、向かいの○○さんも同じようなもんだで!」
「そうなんですか」
「○○さんなんて、息子のために大きな家を建てたのに、千葉に行ったまま帰ってこんだって!」
「はぁ」
「そんな中、あんたはよくぞ帰ってきてくれた!」
「はぁ」
「まだ、そんなに若いのに!」
いやいや
若く見られがちではありますが、そこまで若くないんですよ
「ちょっと待っとって!」
入江さんは玄関の中に顔を突っ込み、声をかけた。
「お~い、お母さん! 2千円、持ってきて!」
「えっ? 良いんですか?」
「いいに決まっとるがな! あんたみたいな若い人が、これからの町内を支えていくわけだし!」
……こりゃ口が裂けても54歳とは言えないな
「初めて福祉委員をやって、初めて町内を回っとるんだろ?」
「はい」
「そんなに頑張っとるのに、手ぶらで帰すのは可愛そうだけなぁ!(笑)」
「ありがとうございます!」
「頑張ってな!」
「はい!」
「困ったことがあったら、いつでも言ってな!」
「はい!」
*
もしかすると
鳥取県知事を目指す前に
まずは町内会を支えるのが僕の天命なのかもしれない。
それとーー
この後、何軒もまわったのだが、そこで確信した。
僕はお年寄りに受けがいい。
詐欺師にならなくて本当に良かった、と。
では、また。
追伸
明日、公園の一斉清掃があるため日記をお休みします。
それこそ町内会の仕事なのです。