ども、うな重よりひつまぶしが好きな岡田達也です。

 

 

 

 

 

父・隆夫さん(87)が

 

贔屓にしているパチンコ屋の中に食堂があり

 

そこで働いている木村さん(63)という女性は

 

いつも明るく、元気で、常連客から人気がある。

 

もちろん隆夫さんも大ファンの一人だ。

 

 

そんな彼女はダブルワークをしており

 

週に1回、吉野家で働いている。

 

 

 *

 

 

隆夫さんがカレンダーを見ながら言った。

 

「うなぎの日はいつだったかいなぁ?」

 

「うなぎの日じゃなくて、土用の丑の日ね」

 

「あぁ、うしの日な」

 

「……23日だけど」

 

「その日なぁ、お父さんがお金出すけ、うなぎを食べんか?」

 

「ごちそうしてくれるの? そりゃありがたいけど」

 

「吉野家で買ってな!」

 

「うん」

 

「明日、お店(パチンコ屋)に行って木村さんに会ったときに、お金渡して予約しておくけなぁ!」

 

 

ん?

 

予約?

 

木村さんに頼むの?

 

ご迷惑になるんじゃないのか?

 

 

「予約しなくても、稽古の帰り道に、俺が吉野家に寄って買って帰るよ」

 

 

隆夫さんの口調が強くなった。

 

 

「いや! 明日、木村さんにお金を渡して予約する!」

 

 

あぁ、なるほど

 

木村さんに良いとこ見せたいのか……

 

 

「木村さんの手間を増やすんじゃないのかな? 」

 

「でも、木村さんに頼んだら、木村さんの営業成績が上がるかもしれんがっ!」

 

 

……営業成績?

 

吉野家ってそんな店だったのか?

 

 

「たぶん木村さんのバイト代には影響しないと思うよ」

 

「それはわからんがっ!」

 

「それに、店員さんに直接予約ってできるかどうかもわからないし」

 

「木村さんに予約する!」

 

 

あぁ、ダメだ

 

こうなったらもう引かないもんな

 

 

「わかった。じゃ、木村さんにお願いしておいて」

 

 

 *

 

 

隆夫さんが帰宅し、夕飯の席で僕は訊いた。

 

「木村さんに予約頼めた?」

 

 

数秒の空白の後

 

ちょっぴり淋しそうに隆夫さんは言った。

 

 

「いやーー」

 

「?」

 

「その日は、たっちゃんが吉野家に行って買って帰ってくれ」

 

「やっぱり予約はできなかったの?」

 

「もう、ええがっ! お金渡すけぇ、買って帰ってきてくれれば!」

 

 

あぁ

 

残念ながら木村さん経由の予約はできなかったらしい

 

彼女の営業成績を上げるのに役立たなかったんだなぁ

 

かわいそうに

 

 

「わかった。じゃ、稽古の後に買って帰るよ」

 

 

 *

 

 

今朝

 

「お父さん、思っただけどな」

 

「なに?」

 

「うなぎの日なーー」

 

「土用の丑の日ね」

 

「無理して吉野家で買わんでも、安いスーパーでうなぎ買ってきて、たっちゃんが料理してくれればいいじゃないか?」

 

「……」

 

「吉野家じゃなくても」

 

「……」

 

「その方が安いだろ?」

 

「……」

 

 

 *

 

 

もう、いっそのこと

 

うなぎじゃなくていいような気がしてるんですけど……

 

 

私、何か間違ってますか???

 

 

 

 

 

では、また。