ども、オーバーエイジ枠の岡田達也です。

 

 

 

 

 

辻村深月シアターを終えて鳥取に戻ってきた。

 

次は8月に行われる『U-18シアタープロジェクト』のセリフを覚えなければならない。

 

 

(チケット発売中です)

 

 

U18の現役高校生たちに交じって、54歳がオーバーエイジ枠で出場するのだ。

 

ピチピチに交じって、一人だけシワシワだぞ?

 

だけど、

 

そのシワは「年輪」とも言い替えることができるんだぞ

 

つまりそれは「経験」ってことだぞ

 

こっちは君たちが生まれる前から芝居でメシを食ってるんだ

 

よしっ

 

若者たちの手本になるべく、しっかりセリフを覚えて稽古に臨もう

 

……と、思っていた。

 

 

が、

 

そういうときに限って必ず災難がやってくる。

 

 

 * *

 

 

父・隆夫さん(87)が声をかけてきた。

 

「お父さん、阿呆だけなぁーー」

 

 

僕は寒気を感じた。

 

彼がこう切り出したときはロクなことがない。

 

自分を1ミリもアホだとは思っていないプライドの高い人間が、

 

こうやって遜(へりくだ)るということは、何かをやらかしたに違いない。

 

怒られるのがイヤで予防線を張っているだけだ。

 

僕は経験則で知っている。

 

 

「なに?」

 

「ソファの上にメガネを置いとってなぁーー」

 


もう、この一言で何が起きたのかはわかった。

 

すべて理解できた。

 

その後の展開さえ見えた。

 

現に今、そのとき予想した通りに事は進んでいる。

 

 

そう

 

僕は彼の未来を予言することができる。

 

 

が、僕はわざと次の言葉を待った。

 

 

「それで?」

 

「そのメガネの上に腰掛けてしまったみたいでなぁ」

 

「うん」

 

「メガネを壊してしまっただが」

 

 

このメガネは、2年前の5月、父上の誕生日に僕がプレゼントしたものだ。

 

 

歳を取れば目は悪くなる。

 

それは当たり前のことであって、

 

(僕自身が今そのことを痛感しているくらいだし)

 

誰もが通る道なわけだから、それ自体は仕方がないことだ。

 

 

だが、

 

いつもいつも古いメガネをかけては

 

「見えん、見えん!」と文句を言ってるくせに

 

「じゃ、新しいの買おうよ」と言うと

 

「ええっ! ええっ! これ(古いメガネ)でええっ!」という父を

 

「誕生日プレゼントだから、こちらの気持ちだから」となだめすかし、

 

何とか説き伏せ、メガネ屋さんに連れて行き作ったメガネだ。

 

 

ところが

 

新しいのができると

 

「これはええなぁ!」

 

「世界がよう見えるわ!」

 

と、超が付くほどご機嫌になって浮かれていたのには腹が立ったが

 

そこはグッと飲み込んで

 

「良かったね。大切に使ってね!」

 

と声をかけたーー

 

 

そんな、メガネだ。

 

 

 *

 

 

その1年後。

 

 

隆夫さんが

 

「お父さん、阿呆だけなぁーー」

 

と切り出した。

 

 

聞けば、ソファの上にメガネを置いたまま、その上に腰掛けてしまいフレームを曲げてしまったらしい。

 

もちろん、速攻でメガネ屋さんに行って修理してもらったのだが、そのとき僕は念を押した。

 

「おとうさん、メガネはソファの上に置かないで、テーブルの上に置いてね」

 

「そうする、そうする! もう絶対にソファの上には置かん!」

 

「値段のこと言いたくはないけど、安い物じゃないからね」

 

「わかった、わかったけぇ!」

 

「メガネ屋さんが「次に同じことがあったらもうダメだと思います」って言ってたからね」

 

「わかった、わかったけぇ!」

 

「大事に使っーー」

 

「わかった、わかったけぇ!」

 

「……」

 

 

 *

 

 

そして1年が経った今

 

再び事件は起こった。

 

 

この人は1年ごとに、

 

メガネをソファに置いて、

 

その上に座るのが仕事なんだろうか???

 

 

 

 

 

つづく