ども、足が遅くなってきた岡田達也です。
昨日のつづき。
*
22:40、その日の最終列車が姫路に向かって上郡駅を出発した。
「おまえはお子ちゃまか? それとも老人なのか?」と言われそうだが、基本的に23時には寝床に入りたい人間だ。
眠いわ、寒いわ、アルコールは切れてるわ、サンライズ出雲に乗れるかどうかの保証もないわ、とんでもない旅になった。
「……鹿よ、飛び出すんじゃないよ。君に悪気はなかったんだろうけど、おかげでエライ目にあってるよ」
と、ブツブツ言いながら各駅停車に揺られ、23:13に姫路駅に到着した。
サンライズ出雲の発車時間は23:33。
ってことは発車まで約20分。
*
姫路駅はデカい。
使われている蛍光灯の量が上郡駅とも、鳥取駅とも違う。
基本的なことだが、都会は明るく、田舎は暗いのだ。
僕は駅の構内にあるであろうコンビニを探した。
セブンイレブンの看板が見えた。
ダッシュした。
……23時に閉店していた。
今度は新幹線の改札めがけて走った。
そっちにもコンビニがあるはずだ。
セブンイレブンの看板が見えた。
ほれみろ
ちゃんとあるじゃね~か
俺の読みはいつだって完璧なんだよ
ダッシュで階段を上り切った。
……23時に閉店していた。
在来線の改札口へ向かった。
駅員さんが2人、立っていた。
「すみません、この辺りにコンビニはありませんか?」
「改札出て3分ほどのところにファミリーマートがございます」
「行ってきていいですか?」
「基本的に途中下車はダメなんですけど」
この会話がもどかしい
時間がどんどんなくなっていく
あと、大事なことを書き忘れていたが、サンライズにはソフトドリンクの自販機しかない。
だからここがラストチャンスなのだ。
「鹿が!」
「……鹿?」
「鹿が列車にぶつかって!」
「はっ?」
二人の駅員さんは不思議そうに顔を見合わせた。
どうやら、この事故のことは耳にしてないようだ。
「鳥取発の『スーパーいなば』に乗ってたら、前を走ってる列車に鹿がぶつかって、私の乗った特急が30分遅れて、車掌さんに「上郡で降りて姫路に向かってくださいって言われたんです!」
「そんなことがあったんですか?」
「えぇ、えぇ、あったんです!」
「それは大変でしたねぇ」
「えぇ、えぇ、大変だったんです! で、岡山駅で買い物しようと思ってたんですけどできなかったから、ここで買い物したいんです!」
「あ、そういうことでしたら、どうぞ」
時計の針は23:20を指していた。
僕は姫路駅の改札を出て再びダッシュした。
自分がサイボーグ009だったら迷わず加速装置を作動させるけど、いたって普通の中年男性だ。
はぁはぁ言いながらコンビニに入店し、酒とツマミを購入し、再びダッシュで駅に向かった。
頭の中で自問自答が始まった。
「何が悲しくて夜の23時過ぎにこんな真剣に走らなきゃならんのだ???」
「それはおまえが酒を飲みたいからだろ?」
「それにはちゃんとした理由があるんだよ」
「酒を飲みたいのは体が冷えたからであって」
「体が冷えたのは、降りる予定ではなかった上郡の駅で30分も寒風に晒されたからで」
「予定に無かった上郡の駅に降りたのは列車が遅れたためで」
「列車が遅れたのは、前の列車に鹿がぶつかったからで」
「……鹿め」
無事に買い物を終え、なんとか間に合ったの図。
*
こうして無事にサンライズに乗車できた。
結局、鹿の安否はわからずじまいだったけど、とても記憶に残る旅になった。
もしも鹿がぶつかったのが『スーパーいなば』ではなく
『山手線』だったら、どえらいニュースになったんだろうなぁ。
では、また。