ども、マックのハッシュポテトも大好きな岡田達也です。

 

 

 

 

 

昨日のつづき。

 

 

 *

 

 

僕はレジで

 

隆夫さんのハンバーガーと、オレンジジュース

 

僕のエグチと、ポテトのS、それからコーラを注文した。

 

 

お会計は710円。

 

父・隆夫さん(86)から預かったのは五千円札1枚。

 

 

……これを崩してしまうのはもったいないかな?

 

そう思ってしまう僕は

 

未だにキャッシュレスな世界に馴染めない人間だ。

 

 

「お札はなるべく崩さないで使いなさい」

 

「一度崩してしまうと水泡のように消えてしまうから」

 

という、明治生まれのおばあちゃんの言いつけが体に染みついている昭和の男。

 

 

結局、自分の財布から710円を支払い

 

「324番」のレシートを受け取り

 

出来上がりを待った。

 

 

 *

 

 

商品を受け取り、席に戻り、父上に五千円札を返した。

 

 

「……あれ? 使わんかったんか?」

 

「うん、安かったから俺が出しておいた」

 

「そうか」

 

「うん」

 

「なら、これは出さんでもええわけだな?」

 

「……」

 

「遠慮なくしまっておくけなぁ」

 

 

あのですね

 

「だったらこれ取っとけ」くらいのことは無いのですか?

 

 

いやいや

 

たしかに俺は54歳だし

 

親から小遣いが欲しいなんて思ってはならない年齢だし

 

その自覚はあるけど

 

貴方がこれまで家族にかけてきた迷惑は

 

五千円札1枚じゃ到底チャラにはできないレベルですよね?

 

 

「これか! これがハンバーガーか?」

 

「そう。で、こっちがオレンジジュースね」

 

「初めて見たわ!(笑)」

 

「……」

 

「初めて食べるわ!(笑)」

 

「……」

 

「これがハンバーガーかぁ、ハンバーガーなぁ」

 

「そう」

 

 

ハンバーガーを見ただけでこんなに感動できる人

 

今の日本にはそうそういないだろうなぁ

 

 

「あのな!」

 

「?」

 

「たっちゃんがレジに並んどるときになぁ、女子高生がようけ入ってきたで!」

 

「レジからも見えてた」

 

「ここは女子高生に人気があるんか?」

 

「あるね」

 

「それからな!」

 

「うん」

 

「男の学生も入ってきたで!」

 

「うん」

 

「ここは男にも人気があるんか?」

 

「あるね」

 

「モスバーガー、すごいな!」

 

「……マクドナルドね」

 

「あぁ!」

 

「覚える気ある?」

 

「(ハンバーガーを手に取り)これは、ちょうどええサイズだ!」

 

「……俺の話、聞いてる?」

 

「これ以上大きいのはいらん!」

 

「それは、人それぞれでね。大きいのが好きな人もいるのよ」

 

「(とても嫌そうに)いらん、いらん! これで、ええ!」

 

「それを言うなら「これが、いい」ね」

 

 

隆夫さんは包み紙をめくり、ハンバーガーを眺めてから、一口齧った。

 

 

「こ、これは!」

 

「ん?」

 

「初めて食べたわ!(笑)」

 

「……それはさっきから何度も聞いてる」

 

「初めての味だなぁ!」

 

「そりゃそうでしょ、初めて食べるんだから」

 

「おいしいなぁ」

 

「ええっ! 美味しいの?」

 

 

正直、驚いた。

 

たしかに肉好きな人ではあるけど

 

“自分のイメージの中に無いものは一切受け付けない人”でもある。

 

そちらの力が勝るのではないか?

 

そう踏んでいた。

 

 

「うん、美味しいわ!」

 

「そう。それは良かった!」

 

 

僕は心の底からそう言った。

 

 

「これくらいのサイズでちょうどええし」

 

「うん」

 

「これとオレンジジュースでお腹いっぱいになるしな!」

 

「うんうん」

 

「ごちそうさまでした」

 

 

こうして、86歳のマクドナルドデビューは無事に終わった。

 

まさか僕の予想と違う結果になるとは

 

何事も経験してみないとわからないもんだなぁ

 

今度は本当のモスバーガーを食べさせてあげようかな?

 

 

「おとうさん、またハンバーガー、食べに来ようか?」

 

「もうええわ」

 

「……」

 

「満足した」

 

「……」

 

 

次に頼まれても二度と連れてくるものか

 

僕は心に強く誓った。

 

 

食に対する好奇心の強さ

 

それこそが彼が生きる原動力のようだ。

 

 

 

 

 

では、また。