ども、釈然としない岡田達也です。

 

 

 

 

 

ギャンブルというのは、生半可な気持ちでやってはいけない。

 

 

「……まてまて」

 

「そもそもギャンブルなんてやるなよ」

 

というお考えのみなさん、

 

あなたは正しい。

 

やらないで済むなら、その方が良いに決まってる。

 

 

しかし、

 

人生を歩んでいると、

 

“何か”を賭けなければならない場面がやってくる。

 

 

 * *

 

 

父・隆夫さん(86)は大相撲が好きで、よくテレビ観戦している。

 

老人の趣味が相撲観戦なんて、とてもいいと思う。

 

だが。

 

この人の場合はへそ曲がりというか、天邪鬼というか、

 

とにかく応援の仕方に品がない。

 

贔屓の関取を応援するのはわかるが、嫌いな力士にも厳しい声を上げる。

 

 

「(とても嫌そうに)照ノ富士は愛想がないけなぁ」

 

「(さらに嫌そうに)もうちょっと愛想があればええのになぁ」

 

「いっつもブスッとしとるけなぁ」

 

「照さんは好かんなぁ」

 

 

……もしもし?

 

どこの世界に愛想が良い関取がいるのだ?

 

土俵を下りれば話は別だが、土俵の上でニコニコしていたら勝負にならんだろ?

 

オマケに照ノ富士関は一人横綱だぞ?

 

笑ってる立場じゃないことくらいわからないか?

 

 

しかし

 

よほど生理的に会わないのか、照ノ富士関が登場するたびにこの調子で文句を言う。

 

心の中で思うのはかまわないが、毎日聞かされるこっちの身になってもらいたい。

 

15日間だぞ、15日

 

最初の5日くらいで、僕の耳にはタコができていた。

 

 

と、その反面ーー

 

「今場所はなぁ」

 

「?」

 

「御嶽山(おんたけさん)が、えぇ顔しとるけなぁ」

 

「……」

 

「優勝すると思うで!」

 

「……」

 

「ほら、いけ! 御嶽山!」

 

「……」

 

 

正しくは「御嶽山(おんたけさん)」ではなく、「御嶽海(みたけうみ)」関なのだが、

 

この人なりのおやじギャグが炸裂していて、常に「御嶽山」と呼んでいる。

 

 

 *

 

 

大相撲初場所が始まって中日に差し掛かった頃だった。

 

 

テレビに向かって

 

「いけ! 御嶽山!」

 

「照さんは好かんっ!」


と、連呼する我が父を見て

 

何とも表現しがたい感情が、僕の胸に湧いてきた。

 

 

それは、どす黒い、何かだった。

 

 

そしてーー

 

気が付けば言わなくても良いことを口走っていた。

 

 

「お父さんには申し訳ないけど、照ノ富士が優勝すると思うよ」

 

「(訝しげに)そうかえ?」

 

「他の力士と顔が違うね、顔が」

 

「……そうかえ?」

 

「責任感とか、自信とか、背負ってるものが違うからだろうね」

 

 

僕は取り立てて照ノ富士関のファンではないが、

 

「愛想がないから嫌い」と言われてるこの横綱を今場所だけでも応援しよう

 

勝って、勝って、勝ちまくって、

 

横綱の強さを見せつけて、

 

完膚なきまでに隆夫さんを叩きのめしてほしい

 

……そんな気持ちになっていた。

 

なってしまっていた。

 

 

自分としたことが

 

国技を見るのに私情を挟むなんて……

 

 

自分の感情がコントロールできない時点で役者失格である。

 

 

 

 

 

つづく