ども、お米マイスターの岡田達也です。

 

 

 

 

 

僕が仕事に行っている間

 

父・隆夫さん(86)に、炊飯という“大仕事”を任せるときがある。

 

「米を研いで、炊飯器のスイッチを入れる」

 

たったそれだけのことだが

 

これをやっておいてもらうだけで、主夫としてはずいぶん助かる。

 

 

 *

 

 

僕は、夜は酒を飲むので、なるだけ米は食べないようにしているのだけど

 

隆夫さんの好みに炊けているかどうかをチェックするため

 

炊きあがった白米を一口だけ味見するようにしている。

 

 

まぁ、本人が食べるご飯を、本人が炊飯しているだけなので

 

どんなふうに仕上がっていようがかまわないし

 

わざわざ味見する必要は無いかもしれないけど

 

そこは岡田家・総料理長の責任感が出てしまう。

 

 

と……

 

ひと月ほど前までは気にならなかったのに

 

ここのところ「ぬかの匂いが強く」「米の表面がぬめっている」

 

(あくまでも料理長の主観です)

 

そんな炊き上がりが多くなった。

 

 

おかしいなぁ

 

こんな味だったかなぁ?

 

今、新米なのになぁ

 

もっと美味しく炊けててもいいはずなのになぁーー

 

 

 *

 

 

先日

 

仕事が早めに終わって帰ってきて、まだスイッチの入ってないジャーのふたを開けて確かめたところ

 

なんと、お米が、ぬるま湯に、浸かっていた。

 

 

はは~ん

 

さては、これだな

 

 

 *

 

 

「お父さん」

 

「なんだ?」
 

「ひょっとして、お米をお湯で研いでる?」

 

「……」

 

 

敵の動きが止まった。

 

あからさまに図星のようだ。

 

ついでに呼吸が止まれば面白いのだが。

 

 

「あのね、お米は水でーー」

 

「いやな! 水で研いどるけどなぁ! ちょっと指先が冷たくなるが! そんときに、蛇口からお湯をチョロッと出して温めるくらいはしとるで!」

 

 

敵は、嘘をつき始めた。

 

あの水温は指先を温めてるのではない。

 

確実に、蛇口からお湯を出し、

 

そのお湯で米を研ぎ、そのまま浸している。

 

 

「うんうん、気持ちはわかるよ。でもね、そうすると米がお湯を吸うからーー」

 

「いやな! 水で研いどるけどな! ちょっと指先が冷たくなるが!」

 

 

敵は、人の話を最後まで聞かない。

 

聞いてしまうと自分が不利になることをよく知っている。

 

というか、なぜ自ら土俵際まで行ってしまうのだろう?

 

この逆ギレがすべてを物語っている。

 

 

「いや、だから、怒ってるんじゃなくて、もしも研ぐのが辛かったら無洗米を買うから」

 

「ちょっとお湯で指先を温めとるだけだで!」

 

「うんうん」

 

「冬は寒いが!」

 

「お米は、一粒ずつがしっかりして、固めの炊き上がりが好きなんだよね?」

 

「……まあなぁ」

 

「だとしたらお水で洗おうよ」

 

「……」

 

「そうしたらお父さん好みの炊き上がりになるから」

 

「……そうかえ」

 

 

 *

 

 

昨日

 

仕事先から隆夫さんにメールを送った。

 

 

「本日も一合、炊飯をお願いします」

 

 

すぐに返信が届いた。

 

「了解しました。冷たい水で洗米します」

 

 

僕は爆笑した。

 

 

 

敵は、また一つ、賢くなった

 

……のかもしれない。

 

 

 

 

 

 

では、また。