ども、電気代に悩む岡田達也です。
我が家のリビングには、ローテーブルと、3人掛けのソファがある。
*
父・隆夫さんは床にゴロゴロするのが好きな人で、ソファに腰掛けることがなかった。
テレビを観るのも、食事をするのも、
正座だったり、あぐらだったりと、常に床の上にいた。
半年ほど前までは。
*
僕は腰痛持ちなので、できることなら床での生活ではなく、ソファに座って暮らす方が楽だ。
だから、何度か隆夫さんに相談したことがある。
「お父さん、良かったら、ソファでの生活様式に変えてみない?」と。
すると、隆夫さんは言い放った。
「ええっ! ええっ! ソファは好かん!」
「……じゃあ、なんでこの部屋にソファがあるの?」
「それはお母さんが買ったんだ!」
「あのさ、この先、お父さんの脚が悪くなる可能性もあるじゃない? 床から立ったり座ったりは負担も大きいし、だんだんきつくなるかもしれないよ」
「ええっ! ええっ! まだまだ立てるけなぁ!」
「それはそうだけど、横になるのもソファの方が楽でしょ?」
「ソファはな!」
「なに?」
「狭いがな!」
「……いや、でも十分横になれるよ」
「狭いのは好かん! 床の方がノビノビできるけなぁ!」
「うん、うん、そうだね。だけど、立ったり、座ったりは、ソファの方が絶対楽だよ。世の中のたくさんのお年寄りはそうしてるらしいし、俺も腰痛があるからね、ソファの生活になったら助かるな」
「ええっ! ええっ!」
「いや、だから、今はまだ大丈夫だろうけどーー」
「ええっ! 立てんようになったら人間やめる!」
「……」
“取り付く島もない”
“にべもない”
“けんもほろろ”
……他に適切な言葉があったっけ?
僕は頭の中で言葉を探したけど、やっぱり僕の語彙は少ないらしい。
他には何も浮かんでこなかった。
悔し紛れに「立てなくなったら人間やめます」という念書を用意し、ハンコを押させようかと思ったけど、ここは素直に引き下がっておいた。
*
半年ほど前。
近所のコンビニに自転車で出かけた隆夫さんが、買い物を済ませたあと、帰宅しようと思って
漕ぎだしたところで転倒したらしい。
その日、隆夫さんは帰宅してから腰痛を訴え始めた。
僕は、父を2軒の整形外科に連れて行った。
僕は、父の腰に湿布を貼った。
そしてーー
その日を境に、隆夫さんの生活の拠点は、3人掛けのソファとなった。
腰を痛めたので、立ったり座ったりが辛いらしく、ソファから離れなくなった。
いや、
「離れなくなった」なんて生易しいものじゃない。
完全に根が生えた。
合体した。
合併した。
一体化した。
統一された。
吸収した。
どの言葉を使っても間違いないくらい
ソファに張り付いた生活が始まった。
床には、一切、寝転がらなくなった。
僕は、いまだ、床にいるというのに。
つづく
追伸
明日15時からです!
石川寛美先輩と、森下亮くんと、ぐっだぐだになりながらおしゃべりする予定です。
いいんです、バリッとしていなくても。
肩の力を抜いておしゃべりしたいんです。
そんな時間にしたいのです。
一緒におしゃべりしてる気持ちになってもらえれば最高です。
アーカイブあります。
ご予約も、質問も、お待ちしています!