ども、フルマラソンにスカウトされた岡田達也です。

 

 

 

 

 

天気が良ければ

毎日走るようにしている。

 

いや、

 

「走る」という表現は正しくない。

 

そんなカッコイイものじゃなくて

「早歩き程度のスピードで、脇腹のぜい肉をゆらしながら、鳥取市内を徘徊している」

というのがピッタリだ。

 

だが、

 

スピードはなくても毎日走っていれば、シューズはくたびれる。

 

ここのところ

お気に入りのニューバランスがヘタってきて

靴底も削れていたので

あたらしい靴を買いにスポーツ用品店に出かけた。

 

 

 *

 

 

ランニングシューズを手に取って見ていると

僕より10歳くらい若い、男前な店員(Fさん)が近寄ってきて声をかけてくれた。

 

 

「ランニングシューズをお探しですか?」

 

 

かなり日に焼けている。

ひょっとしてこの人もランナーだろうか?

 

 

「はい」

 

「そうですか!」

 

 

Fさん、妙に嬉しそうだ。

 

 

「すでにランニングされてますか? これから始めるかんじですか?」

 

「基本的には毎日走ってます」

 

「素晴らしい!」

 

 

なんだかわからないがほめられた

 

 

「マラソンシューズも進化していますよ」

 

「そうみたいですね。最近の記録の伸びは、ナイキの厚底のおかげだって聞きますし」

 

「そうです。どんな走りをするかによって、ピッタリのものが探せる時代になりました」

 

「はぁ」

 

「そして、私が責任持って探させていただきます!」

 

 

押しが強いな……


 

「走られてるお時間はどれくらい?」

 

「40分前後です」

 

「ってことは、10kmくらいですか?」

 

 

だとしたら1キロ4分で走らなければならない。

そんなペースで走ったら死んでしまう。

 

 

「いやいや、とんでもない! もっと、のんびり、ゆっくり走ってます」

 

「マラソン大会の出場経験は?」

 

「いやいやいやいやいや、ないです、ないです! あくまでも健康維持が目的ですから」

 

「これから出場のご予定は?」

 

「生涯出ないと思います」


「ちなみにですが、こちらの商品がナイキのエアズームアルファフライです」

 

「はぁ」

 

「先日の東京五輪でほとんどのマラソンランナーが履いていたのがこちらになります。試してみられますか?」

 

 

……Fさん、俺の話を聞いてるのだろうか?

 

 

「いや、そこまでタイムを求めてないですし。そもそも、値段がちょっとーー」

 

 

アルファフライはナイキのランニングシューズの中でもトップモデルで

価格も26,000円とお高い。

 

僕は、26,000円の足元で走るようなランナーではない。

 

 

「そうですか」

 

「えぇ、もう少し安い価格で探してます」

 

「しかしですね、やはりクッショニングが違うんですよね~」

 

「……」

 

「ヒールストライクで走っても、フォアフットで走っても、反発力が推進力に変わって、確実にタイムは縮まりますよ」

 

「……」

 

「私が保証します」

 

 

僕はオリンピックに出る予定はない

 

 

「あの~、タイムは関係ないんです」

 

「そうですか」

 

「すみません」

 

 

Fさんがあまりにもガッカリしているので

思わずあやまってしまったではないか

 

やっぱりこの人はランナーだろうか?

 

 

「Fさん、ひょっとして走ってらっしゃいます?」

 

「はい! 走り始めたのはここ5年ですけど!」

 

「マラソン大会は?」

 

「毎年出てます!」

 

 

あぁ

どうりで

 

「タイムはどれくらいなんですか?」

 

「ベストが4時間30分です」

 

「いいですね」

 

「ありがとうございます! 鳥取マラソン大会は毎年楽しみにしています!」

 

「でも、今年はコロナで中止になりましたよね?」

 

「そうなんですよ」

 

「残念でしたね」

 

「でも来年は走れそうなので、そこに照準を合わせて仕上げていこうと思います」

 

「がんばってください」

 

「お客様、このナイキのエアズームを履いて、一緒に大会に出てみませんか?」

 

「(笑)」

 

 

 *

 

 

靴を買いに来たのに

気が付けば

なぜだか店員さんの意気込みをインタビューする立場になっていて

思わず笑ってしまったけど

 

この熱量

この口説き文句

ホントに走ることが好きな人なんだろう。

 

とてもうらやましい。

 

正直

僕は「健康のため」と思って頑張って走っているので

走りを楽しむ余裕などない。

 

 

いつの日か

走ることを楽しめるようになったら

このお兄さんと一緒に鳥取マラソンを走ってみよう。

 

 

 

 

 

では、また。