ども、横浜中華街で食べたお粥が忘れられない岡田達也です。

 

 

 

 

 

僕は“自分のことをコントロールできる人間”だと思っている。

 

日々生きていて「カチン」と来ることもいっぱいあるけど、わりとそれを押さえることができるし、イライラを他人にぶつけるようなことはしない。

 

実際、劇団のメンバーたちは僕が怒ったところを一度も見たことないと思う。

 

怒って済むことならそうするだろうけど、それがベターな解決方法じゃないなら、違う道を探した方が合理的だと思っているから。

 

とはいえーー

 

父・隆夫さんには手を焼く

焼いてしまう

 

この冷静沈着な私が

会話してるだけで

心の中の炎は燃え盛り

頭の中のマグマは沸騰し

「小たっちゃん」が毛穴から溢れ

(『ヤッターマン』のビックリドッキリメカみたいなものだと思ってください)

低血圧な人間にもかかわらず

一瞬で高血圧に逆転してしまう。

 

……「家族」「親子」「血縁」とは、かように恐ろしいものなのか?

 

僕の頭の中でグルグルと考えを巡らせていると、着替え終わった隆夫さんが部屋から出てきた。

 

さすがに嬉しいのだろう。

笑顔である。

 

そして

「ちょっとなぁ、看護婦さんに挨拶してくるけなぁ」

と言い残して

 

ナースステーションのところに行き

「岡田です! 本日退院いたします! 大変お世話になりました! みなさま、お体に気をつけてお仕事がんばってください!」

と、とんでもなく張りのある良いお声で、しかも満面の笑みで挨拶を済ませ

 

振り返ると同時に

着替えやら入院中の荷物やらが入った紙袋を僕に押し付け

何事もなかったかのように

「さ、帰ろうで」

と、ポツリと言った。

 

……こんな外面の良い人間、他にいるだろうか???

 

僕のグルグルは加速し始めた。

 

 

 *

 

「さっきなぁ、デイルームってあっただろ?」

 

「うん」

 

「あそこで、おじいさんとおばあさんが看護婦さんに食事を食べさせてもらっとったろ?」

 

「(……おめぇも立派なじいさんだよ) あぁ、いたね」

 

「い~っつもなぁ、おばあさんがなぁ、食べさせてもらいながら寝ちゃうだがな」

 

「うん」

 

「食べながら寝るなんてなぁ」

 

「?」

 

「もったいなくてできんな」

 

「……」

 

「だって、全部、食べたいがな」

 

「……」

 

「食べきる前に眠るなんてできんわい」

 

「……それは、病気とか体調とか年齢の問題だと思うけど」

 

「そうかえ?」

 

「たぶん」

 

「寝たいわけじゃないんだよ」

 

「ふ~ん」

 

「……」

 

「(とても嫌そうに)それにしてもなぁーー」

 

「ん?」

 

(※ 以下、隆夫さんのセリフは、すべて嫌そうなニュアンスを最大限にしてお読み下さい)

 

「病院の食事はおいしないなぁ!」

(「おいしないなぁ」は「美味しくない」という意味です)

 

「まぁ、病院食っていうのは健康になるための食事だから」

 

「絶食の後は、お粥でなぁ」

 

「……お粥、嫌いだもんね」

 

「おかずもなぁ」

 

「?」

 

「毎日、小芋の煮っころがしでなぁ」

 

「 ……煮物、嫌いだもんね」

 

「横にニンジンが付いとってなぁ」

 

「……ニンジン、嫌いだもんね」

 

「毎日毎日、小芋でなぁ」

 

「……芋、嫌いだもんね」

 

「なんで天ぷらとかエビフライは出てこんのだろうなぁ?」

 

 

 *

 

 

おおおおおぉぉぉぉぉぃぃぃぃぃいいいいい!!!!!

 

おおおおおぉぉぉぉぉぃぃぃぃぃいいいいい!!!!!

 

おおおおおぉぉぉぉぉぃぃぃぃぃいいいいい!!!!!

 

ここはなっ!

 

病院だよっ!!

 

病を治すとこなんだよ!!

 

入院中に天ぷら定食出てきたら驚くわっ!!

 

じゃ、何か?

 

「おおっ、この揚げたてのナスの天ぷらは瓶ビールでやっつけて、海老の天ぷらあたりで冷酒にチェンジしようかな。〆は冷たいおそばで。グフェフェフェフェ」みたいなことがやりたいっていうのか??

 

もう一回言うぞ!

 

ここはなっ!

 

病院だよっ!!

 

病を治すとこなんだよ!!

 

定食屋じゃね~んだよっ!!!

 

そば屋でもね~んだよ!!

 

天ぷらとかエビフライが食べたいならっ!!

 

よ・そ・に・い・け・よ!!!!!

 

「腹が痛い」ってのたうち回ってたの誰だよ??

 

あんただよ、あんた!!!

 

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」って格言があるけどな!!

 

その通り過ぎるだろ!!!

 

忘れすぎなんだよっ!!!

 

 

 *

 

 

「……揚げ物はね、カロリーが高いし。ちょっと病院食には向かないんじゃないかな」

 

「ふ~ん」

 

「美味しいものは体に悪かったりするんだよ」

 

「鰻とか出ればええのになぁ」

 

「……」

 

 

 *

 

 

隆夫さんが亡くなったら

棺の中に帽子を入れようと思っていたが

追加でエビフライと鰻を入れることにした。

 

 

 

 

 

つづく

 

 

追伸

 

昨日、ご指摘がありましたとおり

「TPO」は「時、所、場合」ですね。

怒りのまま間違えて書いてしまいました。

のぶりんさん、ありがとうございました。