ども、竹の子族には入っていなかった岡田達也です。
昨日
夢の中にセーターを着た後輩が出てきて
「達也さん! 私が今着てるセーター、実は自分で編んだんです!」
と、突然どうでもいい告白をされてビックリした。
それとは何の関係も無いのだけど、セーターで思い出した話を。
* *
昔々、『ヘアカタログ』『メンズヘアカタログ』という雑誌があった。
(今もあるかもです)
それは大勢のアイドルの髪型が掲載されていて
みんなが聖子ちゃんやキョンキョンみたいになりたくて
その雑誌を美容院に持って行き
「これと同じ髪型にしてください!」
とリクエストするのだ。
(ちなみに僕はシブがき隊の布川敏和くんの髪型をお願いしていました。お恥ずかしい……)
ある月
『メンズヘアカタログ』の表紙に、竹の子族出身のアイドル・竹本孝之くんが、ざっくりとした手編みの、グレーのニット姿で写っていた。
高校生の僕は思った。
「な、な、なんというお洒落なセーターなんだ!」
「これを着たら僕も竹本孝之みたいにかっちょよくなれるかも!」
……当時の高校生など、おバカで単純な存在だ。
しかしーー
その雑誌に記載されていたそのニットの値段は、目が飛び出るほど高額で、とてもじゃないけど高校生に手出しできる金額ではなかった。
そりゃそうだよな
諦めるしかないか
いや、待てよ……
身近に編み物ができる人がいるじゃないか……
僕は母・秀子さんにその雑誌を見せて言った。
「こんなセーターって編んだりできるもの?」
秀子さんは雑誌を見て、軽い調子で言った。
「似たようなもので良かったらいくらでも編んであげるけど。編んであげようか?」
「えっ? いいの?」
「じゃ、毛糸屋さんに行こう」
トントン拍子とはこのことだ。
高校生にとって洋服を1枚買うのは大きな出費になる。
まさか秀子さんが「毛糸代は自腹でお願いね。そうじゃなければ晩飯抜きで」と言うわけもないだろう。
ってことは、あのお洒落なニット(しかもお気に入りのデザイン)が、ただで手に入るチャンスがやってきたってことだ。
ーーこの機会を逃してはならぬ
図々しい息子はホイホイと手芸店に付いて行った。
*
そのとき初めて知ったのだけど
セーターを編むには「編み図」というものを制作するところからスタートするらしく、手芸店の店員さんは僕はを採寸し、用紙に何事か描き始めた。
……「前身ごろ」?
なんだ「身ごろ」って?
そんな僕をそっちのけで、店員さんと秀子さんとの打ち合わせが始まった。
秀子さんは言った。
「あなたは毛糸を探しなさい。これ(写真)に近いイメージの物ね」
僕は人生で初めての「毛糸選び」という大役を任された。
グレーの、極太の、毛糸
近いものはあるのだけど、「これだ!」というものが無い。
「あった?」
「う~ん、これが近いんだけど、ちょっとだけ感じが違う気がして……」
と、秀子さんは僕が渡した毛糸を見て、何事か店員さんと相談を始めた。
そして密談が終わると立ち上がり、店内を見回り、もう一つの毛糸を持ってきた。
それは、黒くて細めで、一定の間隔で白の綿埃のようなものが施されている毛糸。
そして
「これと、これをねーー」
秀子さんはそう言いながら、僕が選んだグレーの毛糸と、自分が選んだ黒い毛糸の2本をより始めた。
……と
「こんな感じでどう?」
見ると
超極太の
グレーベースだけど
細い黒も見えて
ところどころに白が入った
実にお洒落な1本の毛糸が出来上がっていた
す、す、すげー!
二つの毛糸をミックスするなんて!
そんな発想、編み物素人の自分にはありませんでした!
ひょっとして天才ですか?
このときの驚きは今でも忘れられない。
自分の中に無いものを、いとも簡単に見せられると、人はひれ伏す。
「お母さん、何でもやりますから、何でも言ってください。肩、揉みましょうか?」
……当時の高校生など、おバカで単純な存在だ。
そして秀子さんは2週間ほどでセーターを編み上げてくれた。
僕は上機嫌でそのニットに袖を通した。
うわっ!
竹本孝之になった!
そんな僕に秀子さんは言った。
「顔はこの人(竹本孝之)の方がかっこいいけどね(笑)」
*
今でも、セーターを着る。
でも、あれほどプライスレスなセーターを着ることは二度とないだろうと思う。
そういえばーー
昔は、モテる男というのは、手編みの物をもらってたよなぁ
僕がもらった手編みはこの一着しかないけど。
では、また。