ども、34年後の自分を想像して震える岡田達也です。

 

 

 

 

 

昨日のつづき。

 

 

 *

 

 

数日後ーー

 

「今日は木村さんたちと飲んでくるけなぁ、これを付けていこうかなぁ」

 

父・隆夫さんがニコニコしながら集音器を出してきた。

 

僕は軽いめまいを覚えた。

 

当たり前だ。

 

あの、集音器を購入したときの、装着できなくて、おおばえ(※鳥取弁で「大騒ぎ」の意)したことを、この人は忘れたのだろうか?

 

着けられなくて

イライラして

「もうええわ」と言いいながら

息子の気遣いの品を

テーブルに放り出したのは

誰あろう、貴方ですよ……

 

 

「着けられるの?」

 

「大丈夫だわいな」

 

「鏡を見ながらやると早いよ」

 

「鏡はええ」

 

「……」

 

「ほ~らな、着いたで。これでええだろ?」

 

 

確かに、集音器はキチンと装着されていた。

 

これなら大丈夫かな……

 

 

願わくば、これを機に普段から集音器を着けてくれるようになれば

1 同じ話を繰り返さなくて済む

2 テレビの音量が下がる

3 親子の会話が弾む

(3は可能性の話です。絶対ではありません)

 

期待しすぎないで期待してみよう

 

 

本当に、家族という存在は一筋縄ではいかない

 

血の繋がりとは恐ろしいものだ

 

僕は未だに父の言動に学びっぱなし(あるいは振り回されっぱなしとも言える)だ。

 

 

 *

 

 

その日の夜

 

帰宅してきた隆夫さんが集音器を外しながら言った。

 

「これはなぁーー」

 

なんだ?

何を言い出すんだ?

 

僕はドキドキしていた

 

「大変だなぁ」

 

なにが?

何が大変なんだ?

 

「今はなぁ、コロナでマスクせないけんが」

 

あぁ

なるほど

 

「それになぁ、メガネもかけないけんが」

 

そうね

遠近両用メガネもプレゼントしたし

 

「こう、耳の上に、集音器と、マスクと、メガネだが」

 

確かにそうなるか

 

「耳の上が渋滞しとるが」

 

……うまいこと言うな

 

「なんかの拍子にコレ(集音器)を落としてしまいそうでな」

 

「いや、でも、集音器を落としたら聞こえ方が変わるわけだから気付くんじゃないの?」

 

「いや~、意外と気付かんもんでなぁ。もしも気付いとったら、前の補聴器だって無くしてないわよぉ。20万円もしたのに」

 

「なるほど」

 

母・秀子さんが眉間にしわを寄せて苦悶の表情を浮かべている絵が浮かんだ

 

「また失くしそうだ」

 

ここだ

ここで頑張るんだ、自分

 

「いや、いいよ失くしても。それは安いものだから、いくらでも買ってあげるよ」

 

「ええっ! ええっ!」

 

「いやいやいや、気にしないでいいって。20万円するなら話は別だけど。遠慮しなーー」

 

「もう買わんでええっ!」

 

 

会話が、終わったーー

 

(この「会話が、終わったーー」の部分だけは、『NHK プロフェッショナル 仕事の流儀』の橋本さとしさんの声で再生してもらえたらイメージに近いです)

 

 

 *

 

 

こうして集音器は2度目のお蔵入りとなった。

 

 

 

 

 

つづく