ども、夏痩せしたことがない岡田達也です。
昨日のつづき。
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こうして、僕は坂本竜馬にキャスティングされた。
さてさてーー
不思議なもので
今、稽古中のことを思い出そうとしても、何も浮かんでこない。
おそらく一生懸命稽古してたんだとは思う。
きっと、自分自身に余裕がなくて
ただただ“何かに追われるように”稽古していたから
「楽しい」も「辛い」も無いまま初日を迎えたような気がする。
そして
その初日が、僕にとって生涯忘れられない日となった。
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このとき主人公の岡本を演じていたのは
後輩の南塚康弘(通称・づかっち。現在は退団)だった。
『また逢おうと竜馬は言った』の岡本というのは
気が弱くて、かっこ悪い、ダメダメな男なんだけど
その男が、物語を通して成長していくという
実に“キャラメルボックスらしい主人公”で
出番もセリフも多く、おまけにアクションシーンもあり
精神的にも肉体的にも負荷が多い役だ。
この役にキャスティングされるということは
劇団(というか成井さん)から大きな期待を寄せられているということであり
その証拠に
初演では上川隆也先輩が
1ステにつき約4リットルの汗をかきながら
(誇張はしてません)
再演では今井義博くんが
1ステにつき約2センチずつ身長を縮めながら
(誇張はしてません)
演じていた。
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さて。
南塚康弘である。
倉田アクションクラブ出身の南塚は身体が使えた。
徒手も剣も、見事な技術だった。
ヤツがそのまま劇団にいたら、うちの剣殺陣のレベルはもう少し違うものになっていたと思う。
ただ残念なことに
アクションをやっているときは驚くほどカッコよく頼りになるのだけど
それ以外はからっきしダメで
基本的には弟気質と言うか、甘えん坊体質な
「頼りがい」という言葉から最も遠いところにいる男だった。
当時、僕たちは同じ京王線沿線に住んでいたので
稽古帰り、南塚が途中下車して一緒に飲みに行くことも多かった。
で。
お支払いは必ず先輩である僕でーー
いや、それはいい
それはいいのだけど
せめて一回くらいは「出しますよ!」と言うとか
財布を出す小芝居でもすれば可愛げがあるのだが
はなっから満面の笑みで「ごちそうさまです!」という
どこか憎めない大バカ野郎だった。
こうして思い返してみると
わりと可愛がっていた後輩だった。
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初日。
今は無き、新宿シアターアプル。
幕は開いた。
あとはショーマストゴーオン。
2時間、走り切るしかない。
ところがーー
芝居の後半
僕のバディである南塚の目の表情ががだんだん変化してきたのがわかった。
「……あ、やばいかも」
僕は背中に寒いものを感じた。
つづく