ども、おくせんまんの岡田達也です。

 

 

 

 

 

舞台は「ショーマストゴーオン」。

 

幕が開いたら、何がなんでも最後まで続けなければならない。

 

 

昨日のつづき。

 

 

 *

 

 

「君は郷ひろみか?」

 

思いもよらぬ言葉を投げかけられた。

 

……えっ?

 

郷ひろみ?

 

誰が?

 

僕が?

 

ヒロミゴー?

 

僕は混乱した。

 

 

いえいえ、先生

 

僕は2億4千万もの瞳を持ってませんし

林檎で殺人事件を起こしたこともないですし

「慌てないで」とか言いながらサンバを踊ったこともありませんし

哀愁がよろしくなんて言ったこともありませんよ……

 

 

「君、ニュースを見てないのか?」

 

ニュース……

ニュース……

 

あっ!

 

「もしかしてあれですか? 名古屋のーー」

 

「そう! 彼も骨を折って舞台を続けたでしょう?」

 

 *

 

実はその数日前のこと。

 

郷ひろみさんが名古屋の御園座での本番中

舞台セットから転落し、足の親指だか小指を骨折

だが、その後も本番を務めたという芸能ニュースをスポーツ新聞で読んでいた。

(この頃はスポーツ新聞を毎朝読んでました。当時はまだネット社会じゃなかったんで)

 

 *

 

「君は郷ひろみか?」

 

「いえ、僕は郷ひろみじゃありません」

 

「……そういうことを言ってるんじゃないよ」

 

「すみません」

 

「骨折しても舞台をやるのは偉いと思う。だけどね、彼は足の小指だぞ?」

 

「はぁ」

 

「君は第4肋骨だぞ!」

 

「はぁ」

 

「今、痛いだろう?」

 

「はい」

 

「しゃべるとなおさら痛いだろう?」

 

「はい」

 

「なんでかわかるか? 折れた骨が宙ぶらりんになって、しゃべるたびに肺が膨らむから、骨がこすれて痛いんだよ!」

 

「……」

 

「この声量で痛いんだぞ!」

 

「……」

 

「大きな声出したらどうなるかわかるね?」

 

「……」

 

「君も舞台上で歌うんだろ?」

 

「……え?」

 

「どうせ君も大きな声で歌うんだろ?」

 

 

僕は「二つ目の声」」を使って人の心を操るけど、それはあくまでセリフであって、歌声を披露する場面は無い。

 

僕はヒロミゴーのような歌声を持ち合わせていないし。

 

 

「もっと痛いぞ!」

 

先生は怒っていた。

 

そりゃそうだろう

肋骨が折れたら安静にさせるのが医者の務めだ。

 

だけどーー

 

代わりはいない

 

今、あの芝居で、あの役をやれるのは、日本中探しても自分しかいない。

 

 

 *

 

 

どうか誤解しないでほしい。

 

舞台の上で死にたいとか、そんなこと言ってるわけじゃない。

 

そうではなくて

 

理由はどうあれ

役者が、簡単に舞台を休んではいけない

そう思っている。

 

例え

演出家に「そんな芝居しかできないなら死んでしまえ」と言われても

恋人と血みどろの修羅場を繰り広げた別れ話の後だろうが

詐欺にあってすっからかんになろうが

そんな“心のレベル”が原因で逃げ出すようでは話にならないし

 

例え

骨が折れても

39度の熱があっても

(コロナのことじゃないですよ)

死なない程度に動ける限りは自分がやるべきだし

 

例え

親の死に目に会えなくても、やるしかない。

 

 

舞台を預かるというのはそういうことだ。

 

「技術」云々の前に

「責任」と「覚悟」が無いならば舞台に関わる資格がない。

 

 

僕は、せめてその覚悟がある人を、同業者として捉えたい。

(キャスト、スタッフ、全部込みです)

 

 

 

 

 

つづく