ども、親子で知っている英単語が少ない岡田達也です。

 

 

 

 

 

ようやく、と言っていいだろう。

 

我が家にマスクが届いた。

 

 

「ありがたや、ありがたや」

と感謝しながら受け取った人

 

「我が家は25人家族なんで、ちょっと足りないんですけど……」

と困惑しながら受け取った人

 

「マスクよりも定額給付金はまだかなぁ」

と違うものを首を長くして待ってる人

 

など、人によって“マスクに対する感想”には大きな違いがあるだろう。

 

だが

 

受け取りの温度差はあるにせよ

9割9分の人が同じことを思うはずだ。

 

「我が家にもアベノマスクが届いた」と。

 

だってそうでしょ?

 

今、

日本国内で、

2枚のマスクが届いたら、

国から(あるいは安倍さんから)

配給された、

例のアレだ、

と思うでしょ?

 

思いますよね?

 

思わないわけないでしょ?

 

思わなくない?

 

思わなくなくなくないないない?

 

例えば

人里離れた山奥で

電波にもネットにも頼らずに

俗世との関連を断ち切って暮らしているような人なら

「おやおや? なんだ、このマスク?」

と思うかもしれないけど

そういう人は残りの1分のはずだ。

 

 

人里で暮らしているのなら

このマスクの存在は知ってるんじゃないのか……

 

 

 *

 

 

「こんなものが郵便受けに入っとったで」

 

そう言いながら、父・隆夫さんがテーブルの上にマスクを置いた。

 

「あぁ、やっと来たか」

 

僕は、現状、他のマスクで事足りているので

あまり興味もなく、適当な返事をした。

 

だが……

 

僕と違って、隆夫さんは興味津々だった。

 

「これは、なんだ?」

 

「見ればわかるでしょ? マスクだよ」

 

「……」

 

隆夫さんがシンキングタイムに入った。

 

「どうしたの?」

 

「わかった!」

 

「何が?」

 

「これは、あれだろ?」

 

「そうだよ」

 

「マスクのセールスだな!」

 

「……はっ?」

 

お恥ずかしい話だがーー

 

この言葉を聞いたとき

僕は、父上が何を言ってるのか、さっぱり理解できなかった。

 

人は予期せぬことを言われると思考が混乱するらしい。

 

僕の、脳内で、言葉が、上手く、生まれてこない

 

「……はっ? セールスって?」


僕はおずおずと尋ねた。

 

「新しいマスクができたけぇ買ってください、っちゅう、どっかの会社のセールスだろ?」

 

「……」

 

「違うんか? セールスじゃないんか?」

 

「……」

 

小池都知事がちょいちょい英語を混ぜてくるのはスルーできるようになったが

 

「セールス」という知ってる英単語をやたらと押してくる父上の発言は気に障る。

 

「ち、ちがう、ちがう」

 

僕としたことが完全に動揺してしまっている。

 

「ちがうんか?」

 

「これはね、“例の”アベノマスクだよ」

 

「……」

 

お父さん

一緒にテレビのニュースで見ましたよね?

アベノマスクについて多少だけど親子で語りましたよね?

 

お忘れですか?

 

「……」

 

「……」

 

数秒の時間が流れた。

 

「あぁ、アレな」

 

「そう、アレ」

 

僕は安堵した。

 

「ガーゼだと暑いけなぁ。これは使わんで」

 

「うん。いいよ」

 

「そうか、セールスじゃないんか」

 

「……」

 

 

 *

 

 

アベノマスクについて

僕なりの見解でも述べようかと思ったが

その隙さえ与えてくれない隆夫さんは手強い存在だ。

 

 

 

 

 

では、また。