ども、プロレス好きが災いしたかもしれない岡田達也です。
昨日のつづき。
*
“破裂するかの様な笑いの連続”
“タイムトラベルするときの集中力”
“クライマックスシーンの緊張感”
いくら鈍感な僕でも、モニターを聞いてれば、ある程度客席の空気がどうなってるかは掴める。
いやーー
正しくはモニター越しじゃなかった。
あれは、間違いなく
客席、舞台上、上手の舞台袖、踊り場、搬入口に続く階段
……と続いていって
階段に座っている僕のところまで、ダイレクトに空気が飛んできていた。
演者の姿も見えないし、お客さんも見えないのに、だ。
それはけっして、僕が臆病風に吹かれていたから大袈裟に感じた、というわけじゃない。
その証拠に
劇場にある大きな鉄の扉が、お客さんが笑うたび「ビビビビッ」って細かく揺れて鳴っていたくらいだから。
空気は、確実に、動いていたのだ。
*
Aキャストが終わった。
客席は、まだアチチな状態のままだった。
終演したのにざわつきが止まらないのがその証拠だった。
Bキャストの面々が袖に揃い始めた。
僕が感じていた「怖さ」は、
きっと僕だけじゃやなくて、
みんなみんな同じように感じていたんだと思う。
普段は僕のことをいじってばかりの元気な前田綾が泣きそうな顔で抱き着いてきたり
藤岡宏美も「達也さん……」と言ったままうつむいてるし
おバカの代名詞である畑中智行でさえ青ざめていて
だから
僕は
最年長の自分が
ここで同じように怖がって震えてたら
みんなに申し訳ないような気がして
無理やり自分自身を鼓舞し
「大丈夫、大丈夫!」と、みんなに声をかけた。
それはただの空元気でしかなかったし
みんなの気持ちを救うほどの力は無かったかもしれないけど
それが、そのときの、精一杯だった。
*
はるか役の小川江利子が袖に来た。
「お互いに大阪芸大出身であることは隠しておこう」が合言葉の
普段はバカ話しかしない間柄だが
今回は恋人役である。
エリーも、みんなと同じように青ざめて、泣き顔になっている。
こういうとき
何か気の利いた一言でも言えれば
先輩としての面目も立つのだろうけど
僕は何の言葉も思いつかなくて
代わりに
エリーを抱きしめた
力いっぱい
折れるほど
……って書くと
まるで僕がエリーのことを抱擁し
「大丈夫、大丈夫」と励ましたように思うかもしれないけど
実は
そうではなくて
僕自身が感じている怖さを誤魔化すために彼女のことを抱きしめてしまったーー
というのが正直なところだった。
自分の弱さがそうさせたのだ。
あれが、
女優さんに求めた、
最初で、
おそらく最後になるであろうハグだ。
* *
後日談。
「達也さん、正直に言いますけどーー」
「え? なに?」
「あのとき、ものすごい力で抱きしめてくれたじゃないですか?」
「あぁ、あれな。あんなに力いっぱい人を抱きしめたことはなかったなぁ」
「でしょうね。そうだと思います」
「うん、間違いない」
「だって、あのとき、私、衣裳のヒールが合わなくて腰を痛めてたんですよ」
「……うん」
「だからねーー」
「……なに?」
「嬉しくはあったんですけどーー」
「……」
「まるでプロレス技をかけられているのかと思いましたよ」
「……」
「痛かったです」
「……」
「本番前なのに」
「……」
*
(撮影 伊東和則)
エリー、あのときはゴメンね
では、また。
演劇集団キャラメルボックス
CSC(キャラメルボックス・サポーターズ・クラブ)結成10周年記念公演
2002年 5月
新宿シアターアプル
キャスト A / B
柿本 西川浩幸 / 岡田達也 (ニュースキャスター)
はるか 大森美紀子 / 小川江利子 (高校教師・柿本の恋人)
ヨシノ 津田匠子 / 岡田さつき (柿本の同僚)
アリマ 大木初枝 / 岡内美喜子 (レポーター)
タケチ 伊藤ひろみ / 前田綾 (高校生・はるかの教え子)
オオツ 青山千洋 / 藤岡宏美 (高校生・はるかの教え子)
クサカベ 中村恵子 / 温井摩耶 (高校生・はるかの教え子)
ヤマノウエ 篠田剛 / 畑中智行 (時間管理局員)
サルマル(日替わりキャスト) 成井豊 近江谷太朗 上川隆也 細見大輔