ども、女性の誘いを断った岡田達也です。

 

 

 

 

 

一昨日の朝

ジョギングに出かけた。

 

 

ある程度の負荷をかけるために

ピッチを上げて走りたい気持ちはあるのだけど

 

それは

50歳を超えた肉体にとって

かなり無理がある注文なので

 

あくまでも

長く走れるように

 

のんびり

ゆっくりと

 

しかし

気持ちだけは“箱根駅伝のランナー”のように

 

見えないタスキを背負い

(実際はスマホを入れたウエストポーチな)

 

聞こえない声援を耳にして

(それはただの幻聴だ)

 

1秒を削り出すイメージで

(それ、必要か?)

 

鳥取の街を走った。

 

 

 * 

 

 

40分ほど走って鳥取駅の近くまで戻ってきたとき

 

若くて小柄な女性が、僕に近寄って話しかけてきた。

 

「あの~、すみませんーー」

 

 

おっ

なんだ、なんだ

 

「サインしてください」か?

 

今はランナーの格好をしているが

これでも俳優の端くれだ。

 

この女性も

どこかで僕の出演している舞台を観ていて

「いや~! 生岡田達也だ! やっぱりオーラが違うわ! サインしてください!」

みたいなことかもしれない。

 

あふれ出てしまうオーラを消して生きていくことは不可能なのだろうか?

 

やるな、自分

 

 

僕は耳に挿していたイヤフォンを抜いた。

 

 

 *

 

 

「あの~、すみません」

 

「はい」

 

「私、NHKで記者をやってる者ですけど。ちょっとお時間よろしいでしょうか?」


「……」

 

「緊急事態宣言が全国に出されました。それについて、街の方の声を聞かせてもらってるんですが。インタビューさせていただいても?」

 

「……(あ、そっちね)」

 

まぁ、いいか

 

自分のインタビューが何かの役に立つとは思えないけど

時間だけはたっぷりあるし

 

僕は愛想よく返事した。

 

「いいですよ。時間はありますから」

 

 

と、返事した瞬間ーー

 

 

僕の視覚から隠れたところに潜んでいた

熊のようにデカい男性が

テレビカメラを肩に担ぎながら姿を現した。

 

「えっ……」

 

僕の頭に、何かが、よぎった。

 

“テレビに映るの?”

 

僕は確認した。

 

「これ、顔出しですか?」

 

「えぇ」

 

その瞬間

僕の頭の中はフル回転を始めた。

 

 

僕は犯罪者でもテロリストでもないので

テレビに映っても何ら問題はない。

 

だけど……

 

何というか不思議なもので

 

僕のようにテレビの露出が少ない人間でも

 

テレビは

「仕事で映る」ものであって

「プライベートで出演するものではない」

という感覚がどこかにあるのだ。

 

……うん

 

やっぱり、やめておこう

 

「すみません、ちょっと顔出しはーー」

 

そう言いながら僕は頭を下げた。

 

「え?」

 

その豹変ぶりに記者さんは困った顔になった。

 

その困り顔を見て、僕は少し動揺し、言葉の選択を間違えた。

 

「ちょっと映っちゃダメなんですよね」

 

「……」

 

“映っちゃダメ”ってどんな人間だよ?

 

過去に傷でもあるのか?

 

それともやっぱりテロリストなのか?

 

普通なら「出たくないんです」でいいんじゃないのか?

 

 

「……そうですか」

 

記者さんは残念そうに肩を落とした。

 

 

ひょっとすると、けっこうな人数にフラれているのかもしれないなぁ

大変な仕事だなぁ

一度は期待させたのに、悪いことしたなぁ

 

 

僕は軽く頭を下げてその場を離れた。

 

 

 *

 

 

貴重なテレビ出演の機会を自ら逃してしまった

 

……のかもしれない。

 

 

 

 

 

では、また。