ども、即席美容師こと岡田達也です。
父・隆夫さんは、伊達男だ。
洋服もそうだが
頭髪に関してもこだわりが強いらしい。
*
僕が子供のころ
毎朝、ドライヤーを使い
たっぷりの時間をかけて
丁寧な七三分けをキメていた。
僕はその髪型を見て
「なんで花形満を真似てるんだろう?」
と子供心に思っていた。
そんな父も
寄る年波に抗えず
60歳を過ぎた辺りから髪の毛が白くなり始め
その5年後くらいからは、たっぷりあった毛量も薄くなってきた。
84歳の今
もう、花形満にはなれないわけだし
お洒落を諦めてもよさそうなものだと思うが……
*
「ちょっと、頼みたいことがあるだけどなぁ」
「何?」
「これをなぁ、生え際の白いところになぁ、ええ感じでなぁ、吹き付けてもらえんか?」
そう言って隆夫さんはこれを僕に差し出してきた。
白髪染めのスプレーらしい。
84歳になって
すっかり薄くなってるのにもかかわらず
まだこんなものを使って粘ってるのか……
さすが伊達男だ。
「いいよ」
僕はスプレーを手に取り
生え際に狙いを定めて拭きかけた。
なんせ初めてのことなので
噴霧の量も勢いもわからないから
少しずつ丁寧にやるしかない。
多少時間がかかったからだろうか?
隆夫さんは
「もうええ、もうええ、もうええ」
と
頼んだ人間とは思えない
えらく高圧的な態度で突然終わりを告げた。
この人は、こういうところがある。
「いやいや、もう少し白いとこあるよ。やってあげるよ」
「もうええ!」
「……」
なぜか逆切れされた。
僕は
心の中で悪態をつきながら
しかし
あくまでも穏やかな口調を崩さないで言った。
「でも、白いところがーー」
「帽子をかぶるけ、多少白いところがあってもええだ!」
「……」
*
ならば
隆夫さんは
なぜ僕に
スプレーを頼んだのだろう?
伊達男というのは
死ぬまで伊達男らしい。
では、また。