ども、初代貴ノ花関が好きだった岡田達也です。

 

 

 

 

 

昨日のつづき

 

 *

 

「もつ鍋屋から歩く、ちょうどいいんじゃない!」

 

下々の民である僕は

神様の提案に対して

素直に返事してみた。

 

いや……

 

「素直」というのは的確じゃない。

 

だって

 

その

「もつ鍋屋から歩く、ちょうどいいんじゃない!」

というセリフの裏側に

 

僕は

以下のようなニュアンスを乗せたのだから。

 

「いいよ、いいよ!」

「ナイスなアイディアだよ!」

「歩くっていいね!」

「お父さんは今、健康に向かってまっしぐらだヨ!」

「距離の問題じゃないよ! やる気の問題だよ!」

 

 

……偽善だ

 

……偽善者以外の何者でもないぞ

 

演劇で学んだ力を

そんなことに使っていいのか?

 

自分が嫌いになりそうだ

 

 

だがーー

 

言い訳させてもらえなるなら

「家族間の戦い方」というのは

何も真正面からぶつかるだけではないと思う。

 

この父と、真正面からがっぷり四つに組んで戦っていたら

土俵の外に投げ飛ばされるどころか

両国国技館の壁をぶち破って

錦糸町あたりの道端に転がされてしまうだろう。

 

頭を使わなければ、僕に一生勝ち目はない。

 

“その気にさせる”のだ。

 

たったの160m

 

されど160m

 

大事なのは

その一歩を踏み出すことじゃないか!

 

 

僕はもつ鍋屋の前で車を止めた。

 

「ゆっくり、ゆっくり、歩くけな」

 

そう言いながら

神様は意を決したように車を降りた。

 

そのときの僕の感情は

揺れすぎていたのかもしれない。

 

その証拠に

降りていく父の背中を見ながら

「神々しい……」

とさえ思ったのだから。

(多めに盛ってます)

 

 

僕の気持ちが通じたのだろうか?

 

神様は、笑顔で、こう仰った。

 

「こんな天気なら、帰りも途中まで歩いてみようかな?」

 

「!!!」

 

 

僕は

車の中で

両手を組んで

天国の母に感謝の祈りをささげた。

 

 

 

 

 

つづく